糖尿病とは

糖尿病

まず血糖値とは血液中に含まれているブドウ糖のことです。
この血糖値が慢性的に高い状態を糖尿病といいます。
また、糖尿病とは血管の病気ともいえます。

血糖値とインスリンについて

炭水化物に多く含まれる糖質が体内で分解されブドウ糖となり、血液中に存在するようになります。
その後、膵臓から分泌されるホルモンの一種であるインスリンによって細胞に取り込まれることで、脳や体のエネルギー源となっていきます。
血糖値を下げることのできるホルモンはこの「インスリン」しかありません。

そのためこのインスリンが何らかの原因で作用不足を引き起こすと、ブドウ糖が細胞へと取り込まれなくなります。
すると血液中でブドウ糖が過剰となり、血糖値が慢性的に高い状態を保ち続けることになります。

糖尿病の診断について

明らかな糖尿病ではない限り、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行うことで糖尿病の診断をします。
この検査では早朝空腹時にブドウ糖液を飲み、飲む前、30分後、1時間後、2時間後に採血をします。
各時間の血糖値とインスリン値を調べることで、糖尿病なのか、正常なのか、隠れ糖尿病なのかを診断できます。
また、なぜ太りやすいのか、膵臓の働きは今どうなっているのか等も考察できます。
負荷試験によって
「インスリンの分泌が低下しているのか」
「インスリンは分泌されているけれど効きが悪くなっているのか(インスリン抵抗性)」
を調べることができます。
これはその後の治療方針を決定する上でとても大切な結果です。

糖尿病の分類について

糖尿病は

  • ① 1型糖尿病
  • ② 2型糖尿病
  • ③ その他の糖尿病
  • ④ 妊娠糖尿病

に分けられます。

1型糖尿病

主に膵β細胞の破壊によりインスリンの欠乏が起こることで生じます。
HLAなどの遺伝因子にウイルス感染などの誘因、環境因子が加わることでおこり、ほかの自己免疫性疾患を合併することが多くあります。
典型的には若い方に多いですが、最近では高齢の方も増えています。
今まで2型糖尿病として治療されてきたのに検査してみたら1型糖尿病だった、というご年配の方もおられます。
発症や進行の仕方によって「劇症」「急性」「緩徐進行性」に分類されます。
GAD抗体など膵島関連自己抗体が証明できたものを「自己免疫性」とし、自己抗体が証明できないものを「特発性」とします。

2型糖尿病

2型糖尿病は糖尿病患者さんの大多数を占めていて、様々な遺伝も関係しているといわれています。
インスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす複数の遺伝要因に過食(主に高脂肪食)や運動不足などの生活習慣、その結果としての肥満が加わり発症するといわれています。
2型糖尿病でもインスリンが枯渇してしまう場合もあります。
多くは中高年で発症するといわれていましたが、最近では若年者での発症も目立ちます。

その他の糖尿病

遺伝子異常がわかったものとそうでないもの(肝疾患、膵疾患、薬物の影響等)に分けられます。

妊娠糖尿病

妊娠糖尿病とは「妊娠中にはじめて発見または発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常である」と定義されています。
リスクファクターには尿糖陽性、糖尿病家族歴、肥満、巨大児出産の既往、加齢等があります。
妊娠中は比較的軽度な糖代謝異常でも母児に大きな影響を与えやすいため、管理には特別な配慮が必要です。
分娩後には正常になることが多いですが、将来糖尿病を発症するリスクが高く注意が必要です。

糖尿病治療の目標について

糖尿病は実は血管の病気といえます。
慢性的な高血糖は網膜症、腎症、神経障害等の細小血管合併症や脳梗塞、心筋梗塞などの大血管合併症の危険因子になります。
さらに悪性腫瘍、感染症、歯周病、骨粗しょう症、認知症、サルコペニア、フレイルなど様々な病態が複合的に重なり合うといっそう生活の質が低下します。

糖尿病の治療の目標はそれぞれの患者さんの病態を考慮し、糖尿病に伴う身体的な合併症の抑制だけでなく、心理面での負担軽減にも努め、糖尿病のない人と変わらない生活の質を保ち、寿命を全うすることです。

糖尿病の症状と当院の糖尿病の迅速検査について

通常、健康診断などで「少し血糖が高い」と指摘された程度では症状はないかもしれません。
ただそのくらいの軽微な指摘でも
「食後の眠気がひどい、だるくなる」
「ひどい空腹感におそわれる」
「尿から甘いにおいがする」
「尿がにごっている」
「どんどん太ってきて、過食がないのにやせない」
等の症状を訴えられる方もいらっしゃいます。

また高血糖状態を放置していると
「急に体重が減ってきた」
「尿の量が多くなった」
「喉が異常にかわく」
「口の中がべたべたする」
「とても疲れる」
と訴えられる方もいらっしゃいます。
症状がでてきてしまった時は、すぐに適切な治療をしなければ命にかかわることも多々あります。
当院は「院内迅速検査」で緊急性の有無を判断し、その場で治療を決定できます。心配なことがありましたらすぐにご受診ください。

糖尿病の三大合併症について

糖尿病網膜症

糖尿病網膜症の発症を防ぎ、進行を抑制するために定期的な眼科受診が推奨されています。
糖尿病網膜症は初期だけでなく、進行した段階でも自覚症状を欠くことが多く、黄斑浮腫や硝子体出血、牽引性網膜症などがおこったときに初めて視力障害を自覚する場合があります。
そのため糖尿病の診断が確定、疑われた時点で眼科を受診し、糖尿病網膜症がないかどうかチェックしてもらうことが非常に大切です。

神経障害

糖尿病と診断されて比較的早期に出現します。
足に異常を訴える方が多く、
「足がつる」
「両足がしびれる」
「両足がビリビリする」
「足の裏に紙が1枚張り付いている感覚がする」
「熱いと感じない」
「足の裏を知らないうちにやけどしていた」
など、足に異常を訴える方が多くいらっしゃいます。
また糖尿病による神経障害は左右対称に発症することも特徴で、アルコールの多飲とも関連しているといわれています。
その他に
「発汗異常」
「便秘、下痢」
「起立性低血圧」
「膀胱の機能障害」
「勃起障害」
「無痛性心筋梗塞(心筋梗塞は本来とても痛いものですが糖尿病の方は痛みを感じにくい)」
なども神経障害になります。

糖尿病性腎臓病

糖尿病性腎症(腎症)は慢性的な高血糖状態によっておこる腎臓の細胞・組織の障害と血行の異常の結果により生じます。
典型的な腎症は尿アルブミン・尿蛋白の出現とそれに伴い、正常の腎臓の細胞の数が減っていき、進行性に腎機能の低下をきたします。
現在、尿アルブミンの測定が腎症の診断法として確立しています。
尿中アルブミンの排泄量の増加は腎機能低下を予測できると同時に治療の効果を判定することにも最も有用な指標です。
腎症の早期診断、早期治療介入、治療効果の判定とさらなる治療強化を目的として、尿中アルブミンを継続的に測定して評価することが大切です。

糖尿病性腎臓病の重症度分類ではアルブミン・タンパク尿区分、GFR区分、原疾患を考慮に入れ末期腎不全・死亡・心血管疾患に対するリスクを低い順から緑→黄→オレンジ→赤と視覚的にわかりやすくとらえられるように作成してあります。

当院では院内迅速検査でGFR値が当日わかるので迅速診断に役立ちます。
また近年高齢化に関連して正常アルブミン尿のままGFRが低下している方も増えてきました。
「糖尿病関連腎臓病」は2023年から使用されており、
ⅰ)タンパク尿(アルブミン尿)の出現と増加の後に腎機能が低下する典型的な糖尿病性腎症
ⅱ)アルブミン尿の増加がないにも関わらず腎機能が低下する、糖尿病状態に関連する
と考えられる腎疾患の両方を含んだ概念です。

糖尿病性足病変について

糖尿病性足病変は「神経障害や末梢動脈疾患と関連して糖尿病の方の足に生じる感染、潰瘍、足組織の破壊性病変」と定義されます。
神経障害による感覚鈍麻、足の変形、皮膚の乾燥、角化、末梢動脈疾患による血流低下に外因が加わり発症します。
足病変は感染を伴うと重症化し、下肢切断につながり、さらに生命に危険を及ぼすといわれています。
当院では専門のチームによってフットケアを積極的に行っておりますので、お気軽にご相談ください。

糖尿病の治療と当院の治療の特長

食事療法

食事療法

一番大切ですが一番難しいのは食事療法です。
肥満傾向の場合は食事制限が必要になるかもしれませんが、必ずしも全員にはあてはまりません。
適切な食事内容を決めるには採血のみならず、体組成計で体の筋肉と脂肪の割合を調べることが非常に大切です。
身長と体重のバランス(BMI)は悪くないのに何故かお腹がぽっこりしている、足だけが細くてお腹がでている、全体的に痩せているのに血糖が高い等、糖尿病になる要因は皆さんそれぞれにより違います。
糖尿病に至るまでの経過はそれぞれです。
当院では採血のみならず必ず体組成計で体の成分を分析し、管理栄養士のもとにその方にあった食事療法を一緒に考えていきます。

「食事指導」と聞くとあまり良い印象がない方もおられます。
それは一律に「ご飯を少なくしましょう」「甘いものを食べすぎないでください」などと教科書のような内容を繰り返し言われた経験があるからではないでしょうか。
本来はそれでは効果がなく、その方の生活にどれだけ密着した話ができるかが一番大切だと考えています。
夜勤がある方に夜遅くにご飯は食べないでください、とアドバイスしても全くもってナンセンスです。
そのため当院では「栄養指導」ではなく「栄養相談」と表現しています。

運動療法

2型糖尿病の血糖コントロールには有酸素運動(ウォーキング、スイミング、エアロバイク等)とレジスタンス運動(筋肉トレーニング等)が推奨されています。
運動療法は1型糖尿病2型糖尿病に関わらず、心血管疾患のリスクファクターを改善させ、特に有酸素運動は心肺機能を、レジスタンス運動は骨格筋量、筋力を向上させるために推奨されています。
高齢化に伴い、筋肉量が少ない方が目立つようになりました。
あまり知られていませんが、実は筋肉量が少なくても糖尿病になってしまいます。
インターネットに氾濫する糖尿病の食事療法や運動療法は肥満傾向にある方に向けたものが多いようです。
そのため筋肉量が少ない方に対し、適切な食事・運動療法が必要だと切に考えています。
当院院長は健康スポーツ医の資格を持っておりますので、運動療法の相談にも対応ができます。

薬物療法

薬物療法には内服薬と注射があります。

内服薬に関して

現在主に使用できる内服薬は下記になります。

種類 一般名 主な販売名
α-グルコシダーゼ阻害薬 アカルボース アカルボース錠
50mg/100mg
ボグリボース ベイスン錠
0.2/0.3
ミグリトール セイブル錠
25mg/50mg/75mg
SGLT2阻害薬 イプラグリフロジン スーグラ錠
25mg/50mg
ダパグリフロジン フォシーガ錠
5mg/10mg
ルセオグリフロジン ルセフィ錠
2.5mg/5mg
トホグリフロジン デベルザ錠
20mg
カナグリフロジン カナグル錠
100mg
エンパグリフロジン ジャディアンス錠
10mg/25mg
チアゾリジン薬 ピオグリタゾン アクトス錠
15/30
ビグアナイド薬 メトホルミン メトグルコ錠
250mg/500mg
イメグリミン イメグリミン ツイミーグ錠
500mg
DPP-4阻害薬 シタグリプチン ジャヌビア錠
12.5mg/25mg/50mg/100mg
グラクティブ錠
12.5g/25mg/50mg/100mg
ビルダグリプチン エクア錠
50mg
アログリプチン ネシーナ錠
6.25mg/12.5mg/25mg
リナグリプチン トラゼンタ錠
5mg
テネリグリプチン テネリア錠
20mg/40mg
アナグリプチン スイニー錠
100mg
サキサグリプチン オングリザ錠
2.5mg/5mg
トレラグリプチン ザファテック錠
25mg/50mg/100mg
オマリグリプチン マリゼブ錠
12.5mg/25mg
GLP-1受容体作動薬 セマグルチド リベルサス錠
3mg/7mg/14mg
スルホニル尿素(SU)薬 グリベンクラミド オイグルコン錠
1.25mg/2.5mg
グリクラジド グリミクロンHA錠
20mg
グリミクロン錠
40mg
グリメピリド アマリール
0.5mg錠/1mg錠/3mg錠
速効型インスリン分泌促進薬
(グリニド薬)
ナテグリニド スターシス錠
30mg/90mg
ファスティック錠
30/90
ミチグリニド グルファスト錠
5mg/10mg
レパグリニド レパグリニド錠
0.25mg/0.5mg

注射薬に関して

昔は注射といえば「インスリン注射」を意味しましたが、最近では新しいタイプの注射がでてきました。
それが「GLP1受容体作動薬」「GIP/GLP1受容体作動薬」です。
SNSなどで痩せ薬として氾濫しているようですが、不適切な使用は危険が伴います。
当院では必ず適応があるかを判断し、使用後も増量のタイミングの相談、副作用の出現時の注意点などスタッフ一同きめ細かく対応しておりますのでご安心ください。
高血糖が持続することで体がだるい、といった症状が出現してしまっている緊急性の高い方には院内迅速検査ですぐに結果を判断し、すぐにインスリン療法を実施する場合があります。
またご高齢の方でご自身ではどうしてもインスリンができない方へのお手伝いもしております。
最近では週1回の注射製材が増えていますので選択肢が広がりました。高齢化社会において地域に密着することを心掛けております。
なお、24時間血糖測定(フリースタイルリブレ)、インスリンポンプも取り扱っております。

インスリン製剤の種類

インスリン製剤は、作用発現時間や作用持続時間によって、超速効型、速攻型、中間型、混合型、配合溶解、持効型溶解に分けられます。

a. 超速効型インスリン製剤
  • 皮下注射後の作用発現が速く、最大作用時間が短い(約2時間)のが特徴である。
  • 食直前の投与で食事による血糖値の上昇を抑える。
  • 食直前1日3回の注射では昼食前、夕食前にインスリン効果が消失し血糖値が上昇することがあるので、この場合には特攻型溶解インスリンあるいは中間型インスリンを併用する。
b. 速効型インスリン製剤
  • レギュラーインスリンとも呼ばれ、皮下注射のほかに筋肉内注射や静脈内注射が可能である。
  • 皮下注射の場合、作用発現まで30分程度の時間を要し、最大効果は約2時聞後、作用持続時間は約5~8時間である。
  • 食前の投与で食事による血糖値の上昇を抑える
c. 中間型インスリン製剤

持続化剤として硫酸プロタミンを添加したもので、作用発現時間は約1~3時間、作用持続時間は18~24時間である。

d. 混合型インスリン製剤
  • 超速効型または速効型インスリンとそれぞれの中間型インスリンを、さまざまな比率であらかじめ混合したもので、超速効型または速効型インスリンと中間型インスリンのそれぞれの作用発現時間に効果が発現し、持続時間は中間型インスリンとほぼ同じである。
e. 配合溶解インスリン製剤
  • 超速効型インスリンと持効型溶解インスリンを混合したもので、超速効型インスリンと持効型溶解インスリンのそれぞれの作用発現時間に効果が発現し、作用時間は持効型溶解インスリンとほぼ同じである。
f. 持効型溶解インスリン製剤
  • 皮下注射後緩徐に吸収され、作用発現が遅く(約1~2時間)、ほぼ1日にわたり持続的な作用を示すのが特徴である。
  • 不足している基礎インスリン分泌を補充し、空腹時血糖値の上昇を抑える。
新しいタイプの注射
種類 一般名 主な販売名
GLP-1受容体作動薬 リラグルチド ビクトーザ皮下注
18mg
デュラグルチド トルリシティ皮下注
0.75mgアテオス
セマグルチド オゼンピック皮下注
2mg
GIP/GLP-1受容体作動薬 チルゼパチド マンジャロ皮下注
2.5 mg/5 mg/7.5 mg/10mg/12.5mg/15mgアテオス