肥満症と聞いて、肥満のことだと思う方もいるかもしれませんが、この2つは同じ言葉のようで実は異なります。肥満に関しては、体脂肪が必要以上に蓄積されてしまっていることをいいます。具体的には、BMI(Body Mass Index:体格指数)が25以上であると判定された際にいわれるものです。ただこの肥満の状態というのは、単に体格や体型のことを意味するものであってイコール病気ではありません。一方の肥満症とは、肥満がきっかけ、もしくはそれに関係したとされる健康被害を併発している状態をいいます。つまり肥満によって何らかの健康障害が起きているとなれば、肥満症と診断されます。
BMI(体格指数)というのは、体重(kg)を身長(m)の2乗で割ることで算出されます。WHOによれば、BMIの数値が25を超える場合をオーバーウェイト(過体重)、30以上から肥満と定義しています。ただ日本人を含むアジア人の場合、欧米人とBMIが同じ数値だったとしても体脂肪率が高いこともあり、その分だけ健康リスクが大きくなることもあることからWHOの基準とやや異なります。日本肥満学会による肥満の基準というのは以下の通りです。
なおスポーツ選手など筋肉量の多い方については、BMIの数値が高いことによって体脂肪率も高いとは限りません。このような場合は、体脂肪率を測定したり、腹囲を測定したりするなどして併用されるようにしてください。
指標(BMI) | 判定 |
---|---|
18.5未満 | 低体重(痩せ型) |
18.5以上25未満 | 普通体重 |
25以上30未満 | 肥満(1度) |
30以上35未満 | 肥満(2度) |
35以上40未満 | 肥満(3度) |
40以上 | 肥満(4度) |
また日本肥満学会は、肥満症の診断基準につきましても2011年に明確化しています。同基準によれば、肥満症はBMI25以上の方で、肥満に起因、あるいはそれに関連して健康障害が合併している場合としています。肥満に関係するとされる合併症については、以下の11疾患が挙げられています。
※上記のうち、ひとつでも併発している疾患があれば肥満症と診断されます。また内臓脂肪の蓄積(腹囲が男性で85㎝以上、女性は90㎝以上)が確認されたという場合も肥満症と判定されることがあります。
肥満は脂肪が蓄積する部位によって、内蔵脂肪型肥満(リンゴ型)と皮下脂肪型肥満(洋ナシ型)に分けられます。これは見た目(体型)だけでタイプ分けされたものではなく、健康リスクも大きく異なることからも分類されています。
内蔵脂肪型肥満は、主に腹腔内に脂肪が蓄積するので、お腹がぽこっと出た見た目になり、上半身を中心に太った体型になることからリンゴ型肥満とも呼ばれ、男性によく見受けられます。なお内臓脂肪については、代謝活性が高いこともあり、数々な生理活性物質(アディポサイトカイン)が分泌されます。これがいくつもの健康障害を引き起こすようになるのです。
もうひとつの皮下脂肪型肥満は、皮下に脂肪が蓄積されるようになります。この場合、臀部や大腿部など下半身の部位に脂肪が蓄積しやすくなります。その見た目から洋ナシ型肥満とも呼ばれ、同タイプは女性にみられやすいです。内臓脂肪型肥満と比べると健康障害のリスクは低いといわれています。
なお内臓脂肪の蓄積を調べるには、CTスキャンによる測定が最も有効とされていますが、腹囲の測定によって評価されることが多いです。その結果、男性が85㎝以上、女性では90㎝以上あるという場合に内臓脂肪型肥満が疑われるようになります。
この内臓脂肪型肥満ということであれば、血圧、血糖値の数値がやや高い、脂質の数値が少し異常といった場合でも、メタボリックシンドロームと判定されやすくなります。そうなると、生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症 等)を発症しやすくなるほか、脳血管障害(脳梗塞、脳出血 等)や虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)などの重篤な疾患のリスクも高くなります。このようなことから肥満のタイプというのもしっかり確認しておくことも大切です
なお健康診断の結果から、メタボリックシンドローム、もしくはその予備群であると判定をされた方については、生活習慣病あるいはその合併症の発症リスクを低減するべく、日頃の生活習慣を改善するなどの対策を速やかに行うようにしてください。
肥満症を発症する原因はひとつとは限りません。いくつもの要因が複雑に絡み合うなどして起きることも少なくないです。具体的には、以下のような要因によって引き起こされます。
肥満症の発症において最も多い原因というのが日頃の生活習慣です。ひとつは食生活の問題です。必要以上に食べ過ぎる(高脂肪食を多量に摂取、糖分を過剰に摂取する 等)、食事をする時間が不規則(とくに夜遅い)、食物繊維や栄養素が不足していることなどがあります。二つ目は慢性的な運動不足です。また何らかの睡眠障害があるという場合も要注意です。
両親が肥満体質であれば、子どもが肥満になる可能性は高いです。ただ遺伝のみによって肥満症が引き起こされるのではなく、日頃の生活習慣や環境要因が絡み合うなどして起きることが多いです。
肥満症は人を取り巻く環境から引き起こされることもあります。例えば、高カロリー食を入手しやすい状況(低価格化、コンビニの普及 等)にある、都市化による生活様式の変化(歩く必要性が減少 等)などの影響というのもあります。
薬剤の影響が肥満の原因となることもあります。この場合、病気を治すことを目的に使用したとしても副作用として体重が増加してしまうことがあります。具体的には、向精神薬(抗うつ薬 等)、ステロイド薬、抗てんかん薬、β遮断薬(高血圧、不整脈 等の治療で使用)、ホルモン剤(経口避妊薬(ピル)、ホルモン補充療法)などを用いることで、体重増加が起きる可能性があります。
何らかの内分泌疾患を発症していることで肥満症となることもあります。この場合の原因疾患としては、甲状腺機能低下症(橋本病 等)をはじめ、クッシング症候群、多嚢胞性卵巣症候群、成長ホルモン分泌不全症などがあります。これらの場合は原因となる疾患を特定し、それに対する治療を行なうことができれば、多くは体重も改善されるようになります。
肥満症は体重増加だけでなく、様々な自覚症状が現れます。例えば、体重の増加によって身体に負担がかかるようになれば、日常的に疲労感や倦怠感がみられるようになります。また呼吸困難も現れやすくなります。これは過剰となった脂肪組織が胸郭や横隔膜の動きを抑制し、それによって肺の拡張が妨げられることによって起きるとしています。
また体重増加によって、股関節、膝、足首といった足の関節に加わる負荷も大きくなって、これらに痛みを感じるようになります。これが活動性をさらに低下させ、さらなる体重増加につながることもあります。このほか、多汗、皮膚のしわや折り目の部分で皮膚がただれる、身体にむくみがみられるといったこともあります。
さらに肥満症は、その重症度や発症期間によって異なりますが、様々な合併症を引き起こしやすくなります。場合によっては、生命に影響してしまうこともあります。主な合併症は次の通りです。
2型糖尿病と肥満症は関連性が強いとされています。なかでも内臓脂肪の蓄積による肥満は、インスリン抵抗性を亢進させ、血糖のコントロールが難しくなります。ちなみにBMI25以上の肥満の方と標準体重の方を比較すると、前者の方が約4倍も2型糖尿病を発症するリスクが高くなるという調査結果が、日本肥満学会で報告されています。
肥満症の方は、肥満とされていない方と比較して高血圧の発症率が2~3倍程度高くなるといわれています。高血圧は自覚症状がないまま病状を進行させます。したがって、肥満あるいは肥満症の方は、定期的に血圧を測定し、数値が高いとの指摘を受けた場合は、速やかに当院をご受診ください。
肥満症と脂質異常症の関係も深く、とくに内臓脂肪型肥満のタイプであれば、LDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪が血液中で増えやすく、HDL(善玉)コレステロールは減少する傾向にあります。日本動脈硬化学会によれば、肥満症患者さんであれば脂質異常症を発症するリスクというのが2~3倍高まるとしています。
肥満症では、心臓に余分な負荷を常にかけ続けることにもなるのですが、これが心筋の肥大、心機能低下などを招くことになります。これによって、不整脈や心不全などの心血管疾患の発症リスクを上昇させます。なお、先に挙げた、糖尿病や高血圧、脂質異常症も動脈硬化を促進させるので、これらによっても心血管疾患のリスクを上昇させます。
肥満症患者さんの多くの方に脂肪肝が認められます。その後も脂肪が過剰に肝臓へ蓄積するようになれば、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を引き起こすようになります。このような状態になることは珍しいことではなく、進行すれば非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を発症させます。さらに病状が悪化するようになれば、肝硬変や肝細胞がんに至ることもあります。
肥満症患者さんは、頸部の周囲などに脂肪が蓄積しやすくなります。これによって睡眠中に気道が閉塞され、一時的に呼吸が停止してしまうとされる睡眠時無呼吸症候群を併発してしまうこともあります。この場合、睡眠中の呼吸停止だけでなく、大きないびき、中途覚醒などの睡眠障害、起床後の頭痛、日中の活動時の強い眠気、集中力の低下もみられるようになります。なお低酸素状態などが続くことになれば、高血圧、不整脈、心不全等の心血管疾患の発症リスクも高まるようになります。
先に挙げた身体的な健康問題だけでなく、肥満症は精神的な影響も大きいです。例えば、うつ病や不安障害といった心の病気もある肥満症患者さんは決して少なくありません。同患者さんのうつ病有病率は高いとされ、何らかの関連性はあるといわれています。このほか、学校や職場で差別を受けた、人間関係の困難さを訴える等の社会的問題、容姿に対するいじめを受けるリスクが高いといったことなど、社会的不利益を受けやすいということもあります。
肥満症を診断するには、身体測定が基本とされ、先にも述べたBMIを算出し、肥満の程度なども調べていきます。ただそれだけでは、脂肪の分布状態まで調べるのは困難なので、腹囲の測定も行います。へその高さで腹囲を測定し、その結果、男性で85cm以上、女性で90cm以上であれば、内臓脂肪型肥満が考えられ、様々な生活習慣病による発症リスクと関連するようになります。
上記以外にも、体内の筋肉量と脂肪量の割合を調べるための体組成検査(インピーダンス法:体内に微弱な電流を流し、その抵抗値から体脂肪率や筋肉量などを推定する)をはじめ、血液検査(ホルモンの数値を調べたり、合併症のリスク評価等を行う)、CT・MRIなどの画像診断(内臓脂肪がどれだけ蓄積しているかを確認する)を行なったりして診断をつけていきます。
体重を減らすことも大事ですが、合併症の改善及び予防、QOL(生活の質)の向上といったことについても努めていきます。日本肥満学会のガイドラインによれば、食事療法、運動療法、行動療法が基本とされ、必要と判断した場合に薬物療法や手術療法も行っていきます。
治療にあたっては目標を設定することが重要です。ただ理想体重とされるBMI22の数値まで一気に減量していくのは、とくに高度肥満(BMI35以上)の方には困難です。そのため日本肥満学会では、初期目標として、3~6ヵ月の間に現体重の5~10%程度の減量を目指すのが良いとしています。それでも血圧や血糖値に改善効果がみられるというのが科学的に証明されています。無理のない目標設定で進めていくことが重要です。治療法については以下の通りです。
肥満症治療の基本ですが、食事制限をするだけではあまり効果的とはいえません。長期的な継続が可能な食習慣の改善を実践していきます。
とにかく大事なのは食べ過ぎないことで、適切なカロリー制限というのを厳守します。日本肥満学会のガイドラインでは、1日のエネルギー摂取量というのを設定しておりますが、次の通りです。ちなみに高度肥満症の患者さんでは、超低エネルギー食療法(VLCD)が検討されることもあります。
カロリー制限だけでなく、食事内容についてもこだわる必要があります。例えば、減量中でも筋肉量の維持は不可欠なので、たんぱく質は十分に摂取していきます。また食物繊維が豊富な食品(野菜、海藻、きのこ類 等)を積極的にとっていくことで、満腹感を得られつつ、栄養素も効率よく摂取していけるようになります。なお栄養素配分については次の通りです。
たんぱく質:総エネルギーの15〜20%
脂質:総エネルギーの20〜25%
炭水化物:総エネルギーの50〜60%
食物繊維:1日20g以上
このほか食事日記をつけることで、減量効果はさらに上がるとしています。ある研究によれば、同日記をつける方は、つけない方と比較すると2倍程度の減量効果が得られるといった報告も上がっています。
食事療法と同様に運動療法も肥満症治療の基本となります。この場合は運動によるエネルギー消費が期待できるほか、筋肉量の維持あるいは増加、代謝の活性化、インスリン抵抗性の改善等の効果もみられるようになります。
運動内容については、有酸素運動と筋力トレーニングの2つを組み合わせるのが良いとされています。具体的には、中等度の強度(会話ができる程度)での有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳、水中歩行 等)を1日30分以上で週5回程度行うのが望ましいです。筋トレについては、胸、背中、太もも、臀部等の筋肉を使う運動を週2~3回程度の頻度で行うようにしてください。
なお高齢な方や高度肥満の方は、関節に負担がかかりにくい運動(水中歩行、自転車エルゴメーター 等)から始めるようにしてください。また運動前後にストレッチを行うことは、ケガ予防にもなりますので、これも取り入れてください。
肥満症というのは、日頃の生活習慣が大きく関係します。そのため、食行動や活動習慣を長期的に変えるにあたっては行動療法も欠かせません。これによって肥満につながるとされる習慣や考え方を変えることで、さらなる減量につなげていきます。具体的には、セルフモニタリング(食事、運動、体重等を記録し、自己を見つめ直していく)、代替行動を確立する(食べることに代わる活動で食欲の気をそらしていく。例:趣味に没頭する、入浴する 等)、食べ過ぎる環境要因(ながら食い、食料品を買いだめる 等)を見つけ出し、それをコントロールできるようにする(刺激制御法)が挙げられます。このほか、食事や体重に関する非合理的な考えを改め、現実的とされる考え方にマインドを変えていく(認知再構成)などもあります。
上記の治療法(食事療法、運動療法、行動療法)を3~6ヵ月程度行っても改善に乏しい、あるいは重度の合併症を併発している肥満症患者さんには薬物療法が検討されます。種類としては、主に以下の薬剤があります。
マジンドールは、中枢神経に作用するとされ、それによって食欲抑制の効果がみられるようになります。BMI 35以上もしくは30以上で肥満関連疾患を持つとされる患者さんが対象としています。副作用としては、口渇、便秘、不眠、めまい、動悸、依存性などがみられ、うつ病や重度の不安障害のある方、心疾患や甲状腺機能亢進症の患者さんなどには禁忌とされています。
このほか、GLP-1受容体作動薬のリラグルチドは、食欲抑制と満腹感を維持する効果が期待できます。ちなみにこれは注射薬でもあるので自己注射指導も要します。同薬の対象となるのは、BMI27以上で糖尿病等の合併症がみられる方としています。副作用としては、悪心、嘔吐、下痢、便秘、頭痛、めまい等が現れます。
高度肥満症(BMI35以上)の患者さんで、内科的治療が困難、あるいは重篤な合併症を有しているという場合は、外科的治療(手術療法)が検討されます。
手術の種類としてはいくつかあります。日本では、胃の大半(8割程度)を切除し、細長い「スリーブ」状にすることで食事量を制限したり、空腹ホルモンであるグレリンの分泌を低下させたりするなどして、減量効果を得られるようにするスリーブ状胃切除術がよく行われています。
【診療内容】
糖尿病内科 一般内科 内分泌内科(甲状腺疾患など)
【対象疾患】
糖尿病 高血圧 脂質異常症 高尿酸血症・痛風 肥満症 動脈硬化 甲状腺疾患 睡眠時無呼吸症候群(いびき) 骨粗鬆症 (女性、男性(LOH症候群))など
予約tel.050-1721-5178
WEB予約