ホルモンを分泌する器官のことを内分泌器官といいます。その種類としては、下垂体、甲状腺、副腎、卵巣、精巣など様々あるわけですが、その中でも甲状腺ホルモンを分泌する臓器で発症する疾患のことを甲状腺疾患といいます。
そもそも甲状腺とは、首の前部、喉ぼとけの真下の位置にある重さ15~20gほどの小さな臓器で、蝶が羽を広げたような形をしています(男女で多少の位置は異なります)。この臓器では、サイロキシンとトリヨードサイロニンと呼ばれるホルモンが分泌されています。これらは、全身の多くの細胞に作用して代謝を調整するのをはじめ、体温の維持、心拍数・血圧の調整、脳や神経の発達、骨の成長や発育の促進、胎児や子どもの成長に欠かせないものでもあるのです。
同ホルモンの分泌にあたっては、脳の視床下部から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)と下垂体より分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって、しっかりコントロールされています。
なお甲状腺ではヨウ素を原材料として甲状腺ホルモンが作られるようになります。そのため、体内でヨウ素の摂取量が少ないとなれば同ホルモンの産生が充分でないこともあります。ただ日本人は、ヨウ素を多く含む食品(海藻類 等)を摂取しやすい環境にあるので、同成分の欠乏による甲状腺疾患は起きにくいといわれています。
発症の原因については、自己免疫反応による甲状腺ホルモンの分泌バランスの乱れというものがあります。この場合は自らの組織(甲状腺組織)を攻撃してしまうことになるのですが、これによって、甲状腺ホルモンの分泌が過剰になれば甲状腺機能亢進となります。代表的な病気にはバセドウ病があります。逆に同ホルモンの分泌が低下すれば甲状腺機能低下症が引き起こされます。この場合の代表的な疾患として橋本病があります。
なお自己免疫反応が起きる原因については特定されていませんが、遺伝的に自己免疫反応が起きやすいとされる体質の方が、何かしらの環境因子にさらされてしまうことで発症するのではないかといわれています。環境因子をいくつか挙げると、ストレス、ウイルスなどの感染症に罹患、喫煙、ヨウ素の摂取量が変化する、薬剤の影響、放射線被ばくなどがあります。
甲状腺疾患とは、甲状腺で発症するとされる病気を総称した呼び名になりますが、その種類はいくつかあります。発症頻度は比較的高く、全体的に女性患者さんが多いのが特徴ですが、それぞれの特徴は次の通りです。
甲状腺ホルモンが体内で必要以上に分泌されている状態にあるのが甲状腺機能亢進症です。同症の患者さんのうち、約8割近くの方がバセドウ病によるものといわれています。先でも触れましたが、バセドウ病は自己免疫疾患の一種です。この場合、TSH受容体抗体というものが体内で産生されます。同抗体は甲状腺を刺激するようになるのですが、これによって過剰に分泌されるようになります。男女比は1:5~8程度とされ、20~40代の世代が発症のピークとなっています。
ほかの甲状腺機能亢進症としては、プランマー病(機能性甲状腺結節)、中毒性多結節性甲状腺腫、亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎等も含まれます。ただこれらの中には、一過性による分泌過剰が起きているという場合もあります。
甲状腺機能亢進症でよくみられる症状としては、汗を異常にかく、動悸、手が震える、体重の減少、眼球突出(バセドウ病の患者さんが多い)、疲れやすい、筋力の低下、月経不順(月経周期の乱れ、過少月経)などが挙げられます。精神的症状としては、イライラしている、落ち着きがない等があります。
治療をする場合は、抗甲状腺薬の服用、放射線ヨード療法、手術による甲状腺の摘出があります。
甲状腺ホルモンが体内で分泌不足となってしまい、それによって新陳代謝が低下してしまう状態にある病気を総称して甲状腺機能低下症といいます。その中でもよく見受けられるのが橋本病(慢性甲状腺炎)です。
橋本病も自己免疫の異常によって発症します。この場合、甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)やサイログロブリン抗体といったものが甲状腺組織を攻撃します。これが甲状腺機能を低下させるようになります。中年以降の女性に発症しやすく、同疾患の患者さんの男女比は1:10~20ともいわれています。
また橋本病以外には、甲状腺摘出の手術をしたり、放射線治療を行なったりして起きることがあります。そのほか、薬剤(アミオダロン、リチウム 等)の影響、先天性甲状腺機能低下症、下垂体機能低下なども甲状腺機能低下症に含まれます
よくみられる症状につきましては、寒がっている、体重の増加、身体のむくみ、月経過多等の月経異常、便秘、倦怠感・疲労感などがあります。また精神症状としては、記憶力低下や意欲の低下といったものも現れるようになります。
治療をする場合は、足りない甲状腺ホルモンを補っていく、甲状腺ホルモン剤を服用する補充療法が中心となります。
甲状腺が大きく腫れている状態で、頚の前側に腫れを確認することもできます。種類としては、単純性甲状腺腫と結節性甲状腺腫があります。
前者の単純性甲状腺腫は、甲状腺そのものが均一的に腫れている状態になります。その原因の多くは自己免疫疾患によるものですが、思春期や妊娠期に一時的に甲状腺が腫れてしまうこともあります。
一方、後者の結節性甲状腺腫というのは、しこりとも呼ばれる結節が甲状腺に単発もしくは複数みられている状態です。なお複数の結節がある場合は、多結節性甲状腺腫とも呼ばれ、加齢になると多発しやすいとされ、60歳以上の女性の3割程度の方に見受けられるとの報告もあります。
いずれにしてもそのほとんどは良性の腺腫や嚢胞ですが、全体の5%程度は甲状腺がんのケースもあるので注意が必要です。そのため甲状腺がん発症の有無を調べるための検査(頸部超音波検査、細胞診 等)を行なうことも少なくないです。
甲状腺腫については、すべてが治療を要するというわけでもありません。その決定にあたっては、症状の現れ方、大きさ、甲状腺機能の状態、悪化する可能性などを検査等で調べることで治療内容が決まるようになります。
甲状腺で起きている炎症性疾患を総称した呼び名ですが、発症形態(急性、慢性 等)によってタイプはそれぞれ分けられます。その内容については次の通りです。
急性甲状腺炎は、主に甲状腺が細菌に感染することで発症しますが、その頻度は比較的まれです。症状としては、発熱はじめ、頸部の痛みや腫れなどがみられます。治療をする場合、抗菌薬が用いられます。
急性と慢性の間で徐々に病状が進行することを亜急性といいますが、このタイプの甲状腺炎を亜急性甲状腺炎といいます。この場合、甲状腺がウイルスに感染することで発症することが多いとされています。主な症状は、強い首の痛みと発熱です。通常であれば、発症間もなくでは、血液中に甲状腺ホルモンが漏出するので甲状腺機能亢進症による症状が一時的にみられるようになります。その後、発症から時間が経過していくと今度は甲状腺機能低下症の症状が現れていきます。治療を行う場合は対症療法が中心で、NSAIDsやステロイド薬が用いられます。
このほか亜急性甲状腺炎と同じ経過をたどる無痛性甲状腺炎もあります。これは痛みを伴わない甲状腺炎で、血液中に甲状腺炎が漏れ、その後一時的ではありますが甲状腺機能低下症の症状も現れるようになります。ただ何か治療をしなくても1ヵ月程度で治まるようになります。発症の原因については、自己免疫疾患ではないかともいわれますが特定はされていません。出産後の女性や過去にバセドウ病等に罹患したことのある方などに起きやすくなっています。
また慢性的な甲状腺炎については、橋本病が代表的な疾患です。それ以外では、まれとされていますが、線維性甲状腺炎などがあります。
甲状腺で発症する悪性腫瘍のことをいいますが、内分泌腺がんの中でも発症頻度が高いとされています。初期症状は、ほぼ無症状です。この時点で発見されるケースは、健診などで行う頸部エコーなどによるものです。ある程度までがんが進行すると、首の前側にしこり、頸部リンパ節の腫脹、声のかすれ、首や耳への放散痛、嚥下困難などがみられます。また甲状腺がんが転移すると転移部で、何らかの症状が出るようになります。
なお、甲状腺がんは組織型によって以下のように分類されています。
甲状腺がんの患者さんの8割近くを占めるタイプです。リンパ液の流れに乗って転移して発症することが多いです。ただ進行はゆっくりで、予後はおおよそ良好です。リンパ節への転移はわりと早期から起きやすいものの、遠隔転移はまれといわれています。
甲状腺の中の濾胞細胞より発生する悪性腫瘍です。甲状腺がん患者さんの約5%の患者数となりますが、乳頭がんに次いで患者数は多いです。リンパ節転移は起きにくいですが、肺や骨などへ転移することもあります。
患者数は全甲状腺患者さんの1~2%程度、カルシトニンを分泌するC細胞(傍濾胞細胞)から発生する悪性腫瘍です。原因としては、遺伝性のケース(多発性内分泌腫瘍症 等)もあれば、原因が特定できないこともあります。悪性度は、分化がん(乳頭がん、濾胞がん)よりも高いです。
甲状腺がんの中では、悪性度が最も高いのが特徴で、病状が進行するのも早いです。甲状腺の周囲の臓器(食道、気管 等)に転移しやすいということもあります。高齢者に発症しやすいタイプでもあります。
上記以外にも甲状腺では、悪性リンパ腫が発生することもあります。ただ甲状腺がんとは、発生の仕方や治療法などが異なります。
治療に関しては、がんのタイプや進行の程度、年齢などによって、内容が変わることはあります。それでも原則的には、手術による甲状腺の摘出を行います。また乳頭がんや濾胞がんの場合は、放射性ヨード治療を必要と判断された際は追加します。
甲状腺疾患の発症の有無を調べるためには、問診や身体診察、各種検査を行なうなどして、診断を確定していきます。その内容については、以下の通りです。
診断をつけるにあたって、まず問診からしっかり行っていきます。患者さんに聞く質問内容としては、以下のようなものがあります。
など
ここでは、医師による甲状腺の視診や触診が中心となります。甲状腺のサイズや症状の有無などを見ていきますが、チェック項目としては次のようなものがあります。
甲状腺の機能を調べるにあたっては最も基本的な検査です。以下の項目を測定していきます。
甲状腺より分泌される甲状腺ホルモン(FT3、FT4)の血中濃度を測定します。
TSHは下垂体より分泌されるホルモンで、甲状腺ホルモンの分泌に関係します。
自己免疫性の甲状腺疾患であるとの診断をつけるために測定が必要とされる抗体は、以下のものがあります。
甲状腺の形態異常を調べるために有用な検査として、画像診断法が用いられます。主な検査方法は以下の通りです。
甲状腺疾患で行う画像診断では、最も基本的で重要とされる検査になります(頸部超音波検査)。頸部の前面に向けて超音波を発信し、返ってきた反射波(エコー)を検査装置が捉え、画像化することで甲状腺の状態がわかるようになります。これによって、甲状腺の大きさ、形状、内部エコー性状、血流などが調べられ、甲状腺結節が良性か悪性かもわかるようになります。X線撮影ではないので、被ばくすることはなく、繰り返しの検査も容易に行えます。
甲状腺がんなどの腫瘍が周囲に拡散しているか、頸部リンパ節に転移していないか等を調べます。また甲状腺腫が大きくなったことによる気管、食道の圧迫や偏位の状態なども確認できます。なおヨード造影剤を使用してのCT検査は、甲状腺機能に悪影響が及ぶことがあります。
CT検査でヨード造影剤を使用できない患者さんに使用されるほか、がん組織と正常な組織の区別がつきやすいのも利点です。また悪性腫瘍が周囲の組織へと浸潤している範囲を詳細に調べたいという場合などに用いられます。
触診などで結節(しこり)が確認され、甲状腺がんが疑われた場合に行われる検査です。この場合、採取の位置が正確になるよう超音波ガイド下による針の刺入を行い、結節内の細胞を採取していきます。甲状腺にできた結節の良性、悪性を鑑別するのに重要とされる検査方法でもあります。
甲状腺疾患の治療につきましては、疾患の種類をはじめ、病状の進行具合や全身の状態、患者さんの年齢などによって違ってきますが、主な甲状腺疾患の治療法には以下のようなものがあります。
甲状腺疾患の治療では、基本として行われることが多いです。同疾患による患者さんの大半は、薬物によって症状をコントロールしていきます。種類としては次の通りです。
バセドウ病をはじめとする甲状腺機能亢進症の治療で用いられます。この場合、メチマゾールやプロピルチオウラシルなどが使われます。これらの薬剤によって、甲状腺でのホルモン合成が抑制されるようになります。
治療期間としては1~2年程度という患者さんが多いですが、個人差があります。人によっては長期間服用するケースもあります。
服用による副作用では、皮疹、発熱、関節痛等の症状が現れることがあります。さらに可能性としては低いですが、無顆粒球症や肝機能障害といった重篤な病気に至ることもあります。そのため、服用開始後も定期的に血液検査も行われます。
体内で不足している甲状腺ホルモンを補充する薬剤で、橋本病など甲状腺機能低下症の患者さんの治療薬として使われます。この場合、レボチロキシンが主に用いられます。
服用方法ですが、血中濃度を一定に保つことが必要なこともあり、毎日同じ時間帯に服用します。なかでも朝食前が推奨されています。体内に投与する量については血液検査の結果を見ながら調整していきます。
甲状腺機能低下症での同薬の使用は生涯続けていくことになりますが、適切とされる量で投与されていれば、副作用がみられることはほぼないとしています。
甲状腺機能亢進症の患者さんでは、症状を緩和させるのにβ遮断薬を使用することもあります。ただこの場合は、甲状腺ホルモンの合成を抑制するのではなく、交感神経症状(手の震え、動悸 等)を抑える効果があるとされているものです。
さらに急性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎による甲状腺の炎症では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やステロイド薬を使用することもあります。これらを用いることで、炎症を抑えるようにしていきます。
このほか、甲状腺クリーゼ(甲状腺中毒症の緊急時)や、甲状腺手術前に過剰な甲状腺の血流を減少させる等に対して、ヨウ化カリウム(ヨウ素)製剤を短期間使用することもあります。
薬物療法では効果が不十分、あるいは特定の状況下にあるという場合は手術療法が検討されます。なお甲状腺手術が必要となるケースは以下のような状態にある時です。
など
甲状腺の手術療法の種類としては、以下のものがあります。
一部の甲状腺がんや片側にある結節に適用される方法で、片側の甲状腺だけを切除していきます。
甲状腺の大部分を切除しますが、一部の組織だけは残します。主にバセドウ病患者さん等で行われます。
甲状腺を全て摘出する手術方法となります。甲状腺がんが進行した患者さんに用いられます。術後は、甲状腺ホルモン剤の内服が必要となります。
全摘術:甲状腺全体を摘出する術式で、進行した甲状腺がんなどに対して行われます。
甲状腺の細胞が選択的にヨードを取り込む性質があることを利用して行う治療法です。この場合、放射線を放出するヨードのカプセルを内服します。服用後、甲状腺細胞や甲状腺がん細胞に取り込まれた状態になってから放射線を放出し、これら細胞を破壊していきます。主に以下の病気の際に使用されます。
薬物療法での効果が十分でない、抗甲状腺薬の副作用が問題になっているという場合に選択されます。同治療によって、一部の甲状腺組織を破壊することで、甲状腺機能の亢進状態を抑えていきます。
全摘術による手術を終えた患者さんの補助的治療となります。目的としては、残存の可能性があるとされる甲状腺がん細胞を破壊するために行われます。
同治療は、低用量であれば外来での投与が可能ですが、高用量であれば専用病室に入院しての投与となります。副作用としては、頸部に腫れや痛みが出ることもあれば、唾液腺炎、一時的な味覚障害などが現れることもあります。また同治療によって、甲状腺機能低下症が生涯続くこともあります。このような場合は、甲状腺ホルモン剤の内服が必要となります。
なお妊娠中や授乳中の女性には同治療は禁忌とされ、将来的な妊娠を希望する女性が行った場合は治療後一定期間(6ヵ月~1年程度)の妊娠は控えてください。
【診療内容】
糖尿病内科 一般内科 内分泌内科(甲状腺疾患など)
【対象疾患】
糖尿病 高血圧 脂質異常症 高尿酸血症・痛風 肥満症 動脈硬化 甲状腺疾患 睡眠時無呼吸症候群(いびき) 骨粗鬆症 (女性、男性(LOH症候群))など
予約tel.050-1721-5178
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