更年期障害(女性、男性)について

更年期障害と聞くと、女性特有の症状と思う方もいるかもしれませんが、男性にも起こることがある身体的・精神的な変化のことを言います。

そもそも更年期障害とは、加齢に伴って引き起こされるホルモンバランスの変化による数々みられるとされる心身の不調をいいます。40~60代の方によく見受けられます。

同障害の根本的な原因というのは、性ホルモンの分泌が減少することにあります。具体的にいえば、女性の場合は、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が、男性ではテストステロン(男性ホルモン)が分泌量の低下を起こすと、身体のいくつもの機能で悪影響がみられるようになります。

上記で挙げた性ホルモンの変動というのは、自律神経系のバランスの乱れなどに関係し、これによる様々な身体症状(動悸、発汗、のぼせ、ほてり 等)、精神症状(イライラ、怒りっぽい、不安感、意欲低下 等)が起きるようになり、いくつもの不調が現れるようになります。これらを更年期症状といい、日常生活に支障をきたすほど症状が重ければ、更年期障害と診断されるようになります。

厚生労働省の調査によれば、日本人女性の40~50代の約8割程度の方にいくらかの更年期症状がみられるとされています。その中の2~3割程度の方に日常生活に支障を感じている、いわゆる更年期障害の状態にあるといわれています。ちなみに日本人男性では、50代以上の約3~4割程度の方に更年期症状がみられているとされています。

女性の更年期障害

女性の更年期障害について

日本人女性の平均閉経年齢は50~51歳といわれています。この前後10年間の世代(45~55歳)のことを更年期といいます。更年期にある女性というのは、エストロゲンの分泌が閉経によって減少していきます。なお閉経に至る過程というのは3段階(閉経前期、閉経期、閉経後期)に分類されます。閉経前期というのは、月経周期が不規則になり始める時期で、エストロゲンの分泌がだんだん減少していきます。また最後の月経から1年が過ぎた状態にあると確認されると閉経と定義されます。これが閉経期で、エストロゲンの分泌はさらに減少していきます。次に閉経後の時期にあたるのを閉経後期といいます。同時期は、エストロゲンの分泌が最も少ない時期にあたり、更年期症状が顕著に現れるようになります。

この女性ホルモンの一種であるエストロゲンは、生殖機能だけでなく、骨や血管、神経などにも作用するなどその働きは多岐に及びます。したがって、閉経によって急激に同ホルモンが減少するとなれば、そのバランスは大きく乱れ、様々な系統に影響が及ぶようになります。

なお女性、男性に限らず、性ホルモンは脳内の神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン 等)の産生および調整にも関係しています。神経伝達物質は、感情などのコントロールにも関係しているので、同ホルモンのバランスが乱れることは、うつや不安といった精神症状も起きやすくしてしまうのです。

先にも述べた通り、日本人女性の7~8割の方は更年期症状の経験があるとされ、閉経前後の10年間に更年期障害による心身の不調を訴えるようになります。ちなみに人によって症状の現れ方や程度というのは違ってきますし、年齢的な問題として起きるものでもありません。医学的にも、しっかり診断をつけ、治療を行っていく必要があるとされるものです。女性の更年期障害でよく見受けられる、身体的症状・精神的症状は次の通りです。

女性の更年期障害でよくみられる症状

身体症状

身体的症状でよくみられるのが、ホットフラッシュとのぼせです。上記の症状というのは、日本人女性の更年期障害の患者さんの6割以上が訴えている症状でもあります。ホットフラッシュとは、これといった前触れもなく、顔もしくは上半身に熱感がみられ、さらに発汗も出るようになります。この状態は数分程度続くとされ、胸元から首や顔にかけてよくみられます。日中だけでなく、夜間にも現れ、寝汗をかくなどして睡眠の質を妨げるということもあります。一方のぼせは、頭部や顔に血が上っていく感覚を受けるようになります。これによって、顔が赤くなる、頭がボーッとする。多くはホットラッシュと同時に起きるので、「ほてり」と呼ばれることもあります。

上記以外では以下の身体症状がみられます。

  • 動悸、息切れ
  • 発汗の異常
  • 頭痛
  • 肩こり
  • 腰痛
  • 関節痛
  • めまい、たちくらみ
  • 皮膚の乾燥
  • 体のむくみ(足に出やすい)

など

上記の身体症状については、エストロゲン(女性ホルモンの一種)の分泌不足による、自律神経系のバランスの乱れが関係しているといわれています。

精神症状

前述のように性ホルモンの分泌不足は、脳内の神経伝達物質にも影響が及ぶようになるので、精神的症状も起きるようになります。更年期の女性の4~5割程度の方が更年期障害の精神症状を経験するといわれています。

代表的な症状として、イライラ感が募るということがあります。この場合、普段であれば気にしない振る舞いにも過剰反応を示す、ちょっとしたことで感情がエスカレートしてしまうこともあります。これが家族関係や仕事上の人間関係に支障をきたすこともあります。

代表的な症状として、イライラ感が募るということがあります。この場合、普段であれば気にしない振る舞いにも過剰反応を示す、ちょっとしたことで感情がエスカレートしてしまうこともあります。これが家族関係や仕事上の人間関係に支障をきたすこともあります。

上記のほか、更年期障害では以下の精神症状もみられます。

  • 記憶力、集中力が低下する
  • 不眠症を訴えている
  • 感情の起伏が激しくなっている
  • パニック発作が起きている
  • 音や光、臭い等に過敏になっている
  • 自信を喪失している

など

更年期障害の診断

診断をつけるにあたっては、症状の現れ方、ホルモン値の測定、ほかの病気ではないことを診断する検査などを組み合わせていきます。具体的な内容は次のとおりです。

問診

確認項目としては、年齢、月経の状態、自覚症状の内容や程度等があります。これらを医師が聞くなどしていくことで、更年期障害の可能性を評価していきます。

血液検査

ホルモン値を測定するための採血も行います。主に以下の数値を調べます。

卵胞刺激ホルモン(FSH)

卵巣内で未成熟の卵胞を成熟させる働きをするホルモンです。閉経前後になると数値が上昇し、40 mIU/mL以上と確認されると、閉経状態にあると判断されるようになります。

エストラジオール(E2)
卵巣や胎盤から分泌される女性ホルモンの一種で、同数値が低下すると閉経している可能性が高いです。

黄体形成ホルモン(LH)
排卵を促す働きをするホルモンで脳下垂体より分泌されています。この数値も閉経の前後で上昇するようになります。

インヒビンB
FSHの合成や分泌を抑制するホルモンです。更年期になるとインヒビンBの分泌が低下し、FSHの分泌が増えるようになります。

上記のホルモン検査(血液検査)のほかにも、評価スケールとして、クッパーマン指数や「SMI(更年期指数)等も行い、更年期障害の症状の程度なども調べていきます。

このほか医師が必要と判断すれば、追加検査として、骨密度検査、一般血液検査(貧血や炎症の有無を調べる)、子宮内膜厚の超音波検査(不正出血がある場合に実施)、甲状腺機能検査、血糖値・脂質検査も行います。

更年期障害の症状と類似し、鑑別が必要とされる疾患

更年期障害で見受けられる症状というのは多岐に及んでいるので、似たような症状を呈する疾患との鑑別をしっかり行うことも重要です。更年期になれば、年齢的に更年期障害と思いやすくもなりますが、以下の病気であるケースも少ないので、それらの病気ではないことを確認するための検査(鑑別診断検査)を実施することもあります。

更年期障害と似た症状のある主な病気

甲状腺機能障害
異常な発汗、動悸、倦怠感 など

うつ病・不安障害
気分が落ち込む、不安感に苛まれる など

自律神経失調症
ほてり、めまい、発汗過多、動悸・息切れ など

貧血
倦怠感、頭痛、めまい など

線維筋痛症
全身の筋肉や関節に痛み など

慢性疲労症候群
強い疲労感が続く など

治療について

更年期障害による症状によって日常生活に支障をきたすとなれば治療が必要となります。治療内容については次の通りです。

ホルモン補充療法(HRT)

閉経によって減少したエストロゲンを体内へ補充していく治療法になります。更年期障害の症状を緩和させる方法としては、最も効果的とされているものです。この場合、エストロゲン単剤、もしくはエストロゲンとプロゲステロンが組み合わさった合剤が用いられことが多いです。

同療法では、血管運動神経症状とされるホットフラッシュやのぼせに対する効果が高いとされ、多くの患者さんに改善がみられています。また、発汗、不眠、関節痛などの症状にも効果がみられるほか、骨粗鬆症や心血管疾患等の発症リスクも低減するようになります。

なお補充療法の方法ですが、経口薬(錠剤:プレマリン、ジュリナ 等)をはじめ、パッチやジェルによる経皮吸収剤(エストラーナテープ、ディビゲル 等)、膣剤(エストリール膣錠)、注射剤(プロギノンデポー 等)があります。

これらに含まれる成分に関してですが、エストロゲンのみでは、子宮体がんや子宮内膜増殖症のリスクが上昇することもあるので、プロゲステロンも組み合わせたホルモン補充療法となります。

HRT使用によるデメリットについては、長期の投与によって乳がんリスクがわずかに上昇することがあります。このほか、血栓症や胆のう疾患のリスクが上昇するほか、不正出血がみられることもあります。

また、乳がんや子宮体がん、血栓症、心筋梗塞、脳血管障害(脳梗塞、脳出血 等)の既往歴がある女性、肝機能障害が重度の女性につきましては、HRTによる治療は控えます。

このようなことから、ホルモン補充療法を行うにあたっては、問診や検査を詳細に行っていきます。なおHRT以外の治療としては、対症療法として漢方薬、精神症状が強ければ向精神薬などが用いられることがあります。

男性の更年期障害

男性の更年期障害について

更年期障害というのは女性特有ではなく、男性にも現れることがあります。ただこの場合、「LOH症候群(Late-onset hypogonadism:加齢男性性腺機能低下症候群)」と呼ばれるようになります。閉経が主なきっかけとなって発症する女性の更年期障害と比較すると、はっきりわかるものではありませんが、40代後半~70代にかけて時間をかけて進行するようになります。

原因の大半は、加齢に伴って起きるテストステロン(男性ホルモンの一種)の減少です。同ホルモンは生殖機能だけでなく、筋肉や骨の形成、精神面の健康などにも関わっています。そのため、分泌が十分でないとなれば、何らかの症状が現れるようになります。ただ女性ホルモンの一種であるエストロゲンのように急激には減少せず、時間をかけてゆっくりと減少していく(年間で約1%の低下)ので、症状は次第にみられるようになっていきます。この現れ方というのが、加齢に伴う自然現象のひとつであると認識してしまう人が多いのも特徴です。また女性の更年期障害と比較すると、世間的な認知度が低いため、気づくにくいということもあります。

LOH症候群の定義としては、血液中のテストステロンの数値が低下している状態で、同症候群の患者さんでよく見受けられるとされる複数の症状があるといったことが確認された場合に診断されるとしています。

LOH症候群でよくみられる症状

身体症状

なおテストステロン低下によってみられる身体症状としては、体力の低下があります。例えば、身体を動かす、運動をするといったことが以前と比べて困難になっていきます。また階段の昇降での息切れ、長時間作業で疲労感が現れやすいということがあります。さらに筋肉量が減少し、体脂肪が増えるということもあります。テストステロンには筋肉の修復あるいは成長を促進させ、体脂肪を分解させる働きがあります。減少することで筋肉はつきにくくなり、脂肪はつきやすくなる等の体型の変化がみられます。これによって腹部等で脂肪は蓄積しやすく、メタボリックシンドロームを引き起こしやすくなります。

このほか、抗炎症作用があるテストステロンが分泌不足となれば、筋肉や関節等に炎症が起きやすくなって痛みもみられるようになります。さらに皮膚や髪の毛にも変化がみられ、肌に弾力がなくなってしわが増える、髪の毛が薄くなるということもあります。また同ホルモンの減少は、自律神経を乱すようにもなるので、のぼせや発汗の増加なども起きるようになります。

精神症状

上記のほか、精神面に影響することもあります。テストステロンは、脳の機能にも影響を与えます。そのため、分泌が低下するようになれば、精神的な症状も現れます。よく現れるのが、意欲や気力の低下です。この場合、何もやる気が起きない状態等がみられるようになります。また集中力や記憶力の低下に関しては、認知症の初期症状と疑われることもありますが、LOH症候群であれば適切な治療を行うことで改善されるケースも少なくないです。さらにイライラする、情緒不安定になる、ということもあり、感情のコントロールが困難となれば、人間関係に悪い影響が及ぶようになります。

なお精神的な症状で深刻なケースになると抑うつ状態がみられることがあります。中高年男性でこのような症状があれば、LOH症候群の可能性もあります。気分の落ち込みが激しい状態が2週間以上続くのであれば、一度当院をご受診ください。

性機能への影響

また男性ホルモンの一種であるテストステロンの減少は、性機能障害も起きるようになります。これが一番悩みとして相談しにくいのですが、同ホルモンは性機能の維持に大きく影響するものなので、分泌が減少するとなれば、性機能にも様々な変化がみられるようになります。

その中でもよくみられる症状は性欲の低下です。性的な関心が薄れるとなれば、パートナーとの親密な関係にも影響が及ぶことも考えられます。また勃起不全(ED)がみられることもあります。この場合、血管系や神経系の問題によって引き起こされることもありますが、テストステロンの分泌低下が原因となることもあります。また射精に至るまでの時間が長くなる、オルガズムの低下といったことによる射精障害もみられるといった報告もあります。このような状態にある場合もLOH症候群の可能性もありますので、心当たりがあれば遠慮なく当院をご受診ください。

類似疾患や併発しやすい合併症に注意

上記で挙げられたLOH症候群でよくみられる症状は多岐に及びます。そのため、よく似た症状がみられる疾患との区別がつきにくいことがあります。似た症状であっても治療内容は異なるのでしっかり鑑別する必要があります。

例えば、うつ病とLOH症候群は、どちらも意欲の減退や集中力の低下などがみられます。放置が続けば症状が悪化するばかりか、LOH症候群にうつ病が併発するということもあります。ただ治療のアプローチは、それぞれ異なるのでしっかり鑑別する必要があります。

またLOH症候群でもみられる、疲労感、抑うつ気分、体重増加等は、甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンの分泌が不足)の患者さんにみられる特徴でもあります。そのため、血液検査を行なうなどして鑑別のための検査をすることもあります。

さらにテストステロンの低下は、太りやすい体質にも変わっていくのですが、これによって内臓に脂肪が蓄積しやすくなります。また血糖値や血圧の数値が慢性的に上昇しやすくなる傾向があることから、メタボリックシンドロームのリスクを高め、生活習慣病の発症や動脈硬化促進による重篤疾患の罹患率を高めるようになります。

ちなみにテストステロンの低下は糖尿病(2型)のリスク因子になるほか、糖尿病の患者さんであれば、さらなる分泌低下がみられることもあるので、注意が必要です。

LOH症候群の診断

診断をつけるにあたっては、主に血液検査と症状評価を行っていきます。具体的な内容は次の通りです。

血液検査

血液中のテストステロンの数値を調べますが、主に以下の項目を確認していきます。

総テストステロン

血液中に含まれるテストステロンの総量を数値化したもので、8.0 ng/ml以下の場合に低テストステロン血症が疑われます。

遊離テストステロン

精巣で産生され、血液中で最も働きが強いとされるテストステロンです。

SHBG(性ホルモン結合グロブリン)

テストステロンと結合することで、その活性を調節していくタンパク質です。

LH・FSH

LH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)は、下垂体から分泌される性腺刺激ホルモンです。これらの分泌状態も評価していきます。

なお、遊離テストステロン値が8.5 pg/ml未満、総テストステロン値が3.5 ng/ml未満といった場合、LOH症候群が疑われます。

症状評価スケール

症状評価で使用するスケールには、主に以下のものがあります。

AMS(Aging Males' Symptoms)スケール

身体症状、精神症状、性機能障害など17項目の質問から、症状の程度を回答します。

ADAM(Androgen Deficiency in Aging Males)質問票

10の質問に回答することによる、スクリーニング検査になります。

治療について

LOH症候群(男性更年期障害)の主な原因は、テストステロンの低下によるものです。治療の対象となるのは、血液中のテストステロンが基準とされる数値未満であること、LOH症候群の症状がはっきり現れている、ほかに原因疾患がないという場合です。

治療内容については、テストステロン補充療法(TRT)になります。不足しているテストステロンを体内に補充していきます。種類はいくつかありますが、よく用いられるのは、テストステロンエナント酸エステル注射剤(エナルモンデポ)です。注射については、2~4週間に1回の間隔で行っていきます。注射以外には、経皮吸収型テストステロン製剤やテストステロン軟膏もあります。

TRTの治療による注意点としては、前立腺肥大や前立腺がんが進行する可能性のほか、赤血球増加症(多血症)の発症リスクがあります。このほか、睡眠時無呼吸症候群の悪化、テストステロン増加によるニキビの増加もみられます。さらに精子の産生にも影響するので妊孕性が低下する可能性もあります。

ちなみにTRTによる治療の開始にあたっては、血算検査、PSA検査、直腸診などが行われます。また治療中は定期的に血液検査をしていき、ヘマトクリット値やPSA値の数値を確認していきます。なお、前立腺がんや乳がんの既往歴がある方は禁忌となっています。

上記のほか、症状を緩和させる治療として漢方薬を使用することもあります。なお処方される漢方薬については、各々の患者さんによって異なります。いずれにしても西洋薬との併用が可能で、副作用も少ないことから使用されるケースもよく見受けられます。

また勃起機能を改善させる治療薬として、PDE5阻害薬(バイアグラ、シアリス 等)を使用することもあります。ただ、これらは一時的な改善がみられるもので、完治させるものではありません。なお心臓病のある方などについては使用することはできません。

このほか、日頃の生活習慣を見直すことで症状が改善されることもあります。具体的には、栄養バランスのとれた食事、亜鉛を含む食材やタンパク質を積極的に摂取するなどします。さらに適度な運動を行っていくことは、血行を促進させ、テストステロンの分泌が増加する効果も期待できます。なかでもデッドリフトやスクワット等が有効とされています。