睡眠時無呼吸症候群とは

睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)とは、睡眠時に何度も呼吸が止まったり、著しく低下してしまったりする睡眠障害のひとつです。病名が長いことから、英語の診断名である頭文字をとって「SAS」と呼ばれることもあります。この状態を放置し続けると、満足な睡眠ができなくなるといっただけでなく、睡眠中の酸欠によって全身の臓器に負担がかかるなどして悪影響が及ぶようになるので、気づいたら早めに治療を受けられるようにしてください。

睡眠時無呼吸症候群の定義と機序について

睡眠中に10秒以上の呼吸停止(無呼吸)や低呼吸状態が、7時間の睡眠で30回以上(1時間当たりの換算で5回以上)繰り返され、日中に強い眠気に襲われる、疲労感など何らかの症状が伴っている状態にあるとなれば、睡眠時無呼吸症候群(SAS)と定義されています。

なお呼吸停止というのは、90%以上の気流低下のことをいいます。また低呼吸とは30%以上の気流低下のことで、さらに血中酸素飽和度が3%以上低下する状態も10秒以上確認された場合にSASと診断されることになります。

これらの状態が続けば、睡眠の質の低下や血中酸素濃度の低下のほか、交感神経が過剰に活性化するなどして、いくつもの健康問題が表面化していくようになります。

なおSASの有病率は、日本では成人人口の3~7%程度が潜在的な患者数ではないかといわれています。これを人数に換算すると200万~500万人の患者さんがいるということになります。発症しやすいタイプですが、中高年男性の有病率が高いとされ、40~60代の男性については、10%を超えているとされる報告もみられます。性別でみれば、男性は女性と比較して2~3倍患者数が多いのです。その違いとしては、男性ホルモンの影響をはじめ、上気道の解剖学的特徴の違いなどが関係しているのではないかと言われています。

ちなみに日本睡眠学会の調査によれば、実際にSASの診断や治療を受けられている患者数は、先に挙げた潜在患者数の約15〜20%ではないかといわれています。つまり大半は、診断や治療を受けられていないまま、日常生活を過ごされています。

放置をするのは危険

前述のように多くのSAS患者さんが、何の検査も治療も受けられていないことが考えられます。ただ放置が続けば、短期的でも長期的でも何らかの悪影響が起きるようになります。

短期的な面ですが、十分な睡眠が得られないことで、日中の活動時において過度な眠気が引き起こされ、それによって集中力や注意力が低下するほか、反応速度が低下するといったことがあります。これによって、交通事故をはじめとする事故を起こすリスクが高くなります。ある報告によれば、中等度以上のSAS患者さんと健常者を比較した場合、前者の方が交通事故を2~7倍起こしやすくなるという研究結果が出ています。このほか、仕事の生産性などのパフォーマンスの低下なども挙げられています。

一方、長期的な影響に関しては、生活習慣病の発症リスクが高くなるということがあります。この場合、高血圧の発症リスクは約1.4~2.9倍高くなるとされ、不整脈や虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、心不全などの心疾患などの循環器系や脳血管障害(脳梗塞 等)なども上昇するようになります。ちなみに無治療の重度なSAS患者さんであれば、健康の方と比較して、心筋梗塞の発症リスクは約3倍、脳血管障害(脳梗塞 等)の発症リスクは約4倍に上昇するといった報告もあります。

上記のほか代謝面への影響としては、2型糖尿病の発症リスクも上昇させます。この場合、インスリンの効きが悪くなっていきます(インスリン抵抗性)。さらに脂質異常症や肥満との相互関係、メタボリックシンドロームとの関連性なども挙げられています。

このほか精神面にも悪影響を及ぼすことがあるとされ、うつ病や不安障害の発症リスクを高めるほか、無治療が続けば認知症も発症しやすくなるという研究結果も報告されています。

睡眠時無呼吸症候群の種類

睡眠時無呼吸症候群は、いくつかのタイプに分かれます。それぞれの原因や特徴は以下の通りです。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)

OSASは最も一般的なタイプとされ、全SAS患者さんの8割程度を占めるとされています。この場合、上気道(咽頭部が中心)が物理的に閉塞してしまい、気道が狭窄、あるいは完全に閉塞するようになります。

発症のメカニズムですが、睡眠時というのは通常であれば、筋肉の緊張は低下します。それでも呼吸維持に必要な筋緊張は最低限保たれています。ただOSASの患者さんのケースでは、舌や軟口蓋等の部位の筋肉が過剰に弛緩し、気道を塞ぐようになります。これによって呼吸をするのが困難となっていき、血中酸素濃度は低下していきます。この状態を脳が危険であると察知すると、脳は一時的に覚醒反応していき、筋緊張を回復させることで気道を再び開通させるようになります。睡眠中にこの状態を何十回も繰り返せば、熟睡しにくくなるので、やがて身体にも負担がかかり、何らかの健康問題が起きるようになるのです。

なお気道が睡眠中に閉塞してしまう原因としては、以下のようなケースが挙げられます。

  • 扁桃腺や口蓋垂が肥大している
  • 先天的に舌が大きい(巨舌症)
  • 生まれつき顎が小さい
  • 咽頭(喉)の周囲に脂肪が蓄積されている(主に肥満が原因)
  • 鼻腔に何らかの構造異常(鼻中隔湾曲症 等)がみられる など

中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)

気道に物理的な閉塞はないものの、呼吸が停止してしまうのがCSASです。全SAS患者さんの約5%の方が同タイプにあたります。

この場合、脳から呼吸筋への信号伝達が上手く伝わらないことで起きるようになります。正常な呼吸では、呼吸中枢から呼吸筋へ周期的に信号が送られることで呼吸運動がコントロールされています。ただCSASでは、何らかの原因があって適切とされる信号が送られないことで、呼吸運動が一時的に停止するようになります。

CSASを発症する原因としては、以下のことが挙げられます。

  • 脳幹部で脳血管障害(脳梗塞、脳出血 等)が起きた
  • 心不全によるチェーン・ストークス呼吸がみられる
  • 腎不全に罹患している
  • 呼吸抑制が働くとされる薬剤(オピオイド系鎮痛薬 等)を使用している など

複合性睡眠時無呼吸症候群

OSASとCSASの両方を併せ持つタイプです。多くは、CSASによる無呼吸から始まり、その後、OSASに関係する要素がみられるようになります。

同タイプを引き起こす患者さんには、以下のような特徴がみられます。

  • 重度の心不全を引き起こしたことがある
  • 重症化しているOSAS(閉塞性睡眠時無呼吸症候群)を長期間にわたって放置している
  • オピオイド系薬剤を長期間使用している
  • 神経学的疾患(パーキンソン病 等)を併発している など

リスク要因について

全SAS患者さんの大半を占めるOSAS(閉塞性睡眠時無呼吸症候群)のタイプの方については、発症リスクを上げる要因がいくつかあります。これを知ることができれば、あらかじめ予防できたり、早期発見につなげたりすることが可能です。気になることがあれば、お気軽にご受診ください。

肥満

BMIの数値が高いほど、OSASを発症するリスクは上昇していきます。なかでも内臓脂肪型肥満の方、首回りに脂肪が蓄積している方(気道周囲に脂肪蓄積すると、気道が狭窄化しやすくなる)というのは要注意です。

年齢

年を経るにつれて、睡眠時無呼吸症候群は発症しやすくなります。その要因としては、加齢に伴う筋肉の緊張低下、脂肪分布の変化が挙げられます。また気道構造の変化というケースもあります。

性別

男性の方が女性と比較して、2~3倍ほど発症リスクが高いとされています。原因としては、男性ホルモンの影響、上気道の構造などの特徴、脂肪の分布状態の違いなどがいわれています。ただ女性も閉経後は発症率が上昇し、その男女差は縮まるようになります。

遺伝的要因

血縁者に睡眠時無呼吸症候群の患者さんがいるという場合、発症リスクが25~40%程度上昇するという報告があります。この場合、顔面骨格に何らかの特徴(顎が小さい 等)があったり、上気道の筋肉に特性がみられたりといった遺伝が関係していることが挙げられます。

生活習慣の影響

日頃からの生活習慣が発症リスクを高めることもあります。具体的には、アルコール摂取(とくに就寝前のお酒は上気道筋の緊張を低下させるので、気道閉塞しやすくなる)、喫煙(気道の腫れや炎症を起きやすくするので、OSASの発症リスクを3倍程度上昇させる)があります。

また薬剤の影響もあります。例えば、睡眠薬や筋弛緩薬を使用している場合、筋緊張をより低下させてしまうケースがあります。上記以外には、睡眠時の姿勢です。仰向けで寝る場合は、重力がかかることで舌が後方に落ち込むことがあります。これによって、気道閉塞が引き起こされることも考えられます。

基礎疾患や合併症が関連

何らかの内分泌疾患(甲状腺機能低下症、先端巨大症 等)や神経筋疾患(筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症 等)のある患者さんは発症リスクが高くなります。また心不全(中枢性睡眠時無呼吸症候群を併発しやすい)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんのほか、妊娠後期の妊婦さんもSASが起きやすくなります。

症状について

睡眠時無呼吸症候群は、症状が多岐にわたります。それらは、ご自身で気づくこともあれば、同居する家族などの指摘を受けて気づくケースもあります。今回は自覚の有無に関係なく夜間にみられやすい症状と、日中に患者さんが自覚しやすい症状に分けて紹介します。

夜間によくみられる症状

SASの特徴的とされる症状は夜間時の睡眠中にみられます。これらの症状が睡眠の質を低下させます。なかでも、いびきがうるさいのが大きな特徴ですが、気をつけなくてはならないのは無呼吸です。これが10秒間以上続き、1時間あたりで5回以上みられるとなれば、SASと診断されることになります。以下のケースは、ご自身では気づきにくいこともあります。

  • 無呼吸(呼吸が止まっている)
  • 息苦しくなって目が覚める
  • 眠っている最中にトイレに行きたくて目が覚める(夜間に2回以上)
  • 睡眠時は口呼吸になっている
  • 睡眠中に体が激しく動く、頻繁に寝返りをうつ
  • 寝汗をよくかいている
  • 朝起きた際に喉の渇きを感じる(喉や口が乾燥している)
  • 眠っている最中に突然目が覚める など

日中にSAS患者さんが感じる自覚症状

SASによる睡眠の質の低下というのは、日中の活動時にも大きな影響が及ぶようになります。息苦しい、頻尿等によって、深い眠りにつけないとなれば、長い時間寝たとしても活動時に強い眠気に襲われる、集中力を欠くなどの自覚症状が解消されることはありません。最悪の状況になれば、異常な眠気によって、交通事故や作業事故を引き起こすこともあるので、気づいたら早めに診断を受け、必要であれば適切な治療を行うようにしてください。

  • 朝の起床時に頭痛がする
  • 寝起きから疲労を感じている
  • 午後の時間帯に強烈な眠気に襲われる
  • 日中に強い倦怠感を覚える
  • 集中力や記憶力が低下している
  • イライラ感や抑うつ気分に見舞われる
  • 性欲が減退している
  • 仕事上でのミスが増えてきている
  • 反応速度が遅くなっている など

検査について

上記の症状などに心当たりがあり、睡眠時無呼吸症候群の疑いがあるという場合は、速やかに当院をご受診ください。初診時は、まず医師から詳細な問診を行います。具体的には以下の項目について確認していきます。

  • 何時に寝て、何時に起きているか
  • いびきの大きさや頻度
  • 同居している家族等に睡眠時に呼吸が止まるとの指摘を受けた
  • 日中に強い眠気、倦怠感に襲われたことがあるか
  • 起床時に頭痛や喉の渇きがあるか
  • 夜間頻尿はみられているか
  • 集中力低下や記憶力の問題 など

上記のほかにも、既往歴や家族歴、常用薬の有無についても確認していきます。このほか、高血圧、糖尿病、心臓病等の合併症の有無についても調べます。さらに身長と体重からBMIを算出し、肥満度もみていきます。

また身体診察として、扁桃肥大、口蓋垂の長さ、舌の大きさ等、上気道の状態をはじめ、顎の形態、鼻腔なども確認し、SASの解剖的特徴もチェックしていきます。

問診や身体所見の結果から、SASが疑われるという場合、重症化のケースでなければ簡易検査(ポータブル睡眠検査)を行ないます。同検査は、睡眠中の呼吸状態、酸素飽和度、心拍数を測定できる小型装置で行います。寝る前に指先や鼻先にセンサーを患者さんご自身で装着し、眠りにつくだけで上記項目の測定が可能となります。費用は安価ですが、検査結果の解釈に限界があるため、詳細な検査が必要となれば精密検査として、PSG(睡眠ポリグラフ検査)が行われます。

PSGの検査にあたっては、医療機関での一泊入院となります。同検査では、脳波、眼電図、筋電図、心電図、呼吸モニター、酸素飽和度、いびき音、体位センサー、ビデオモニターと多岐に及ぶ検査機器等を使用し、詳細な項目を調べていきます。そのため、様々なセンサーを装着したり、モニターを用いたりするので、事前に患者さんはこれらの説明を受けます。検査機器については年々、小型・軽量化が進み、睡眠時にその異様さというのを感じにくくなってきています。

翌朝の起床で検査は終了となります。取得したデータについては、詳細に分析されていきます。これによって、睡眠の深さや質、無呼吸や低呼吸状態の回数、その持続時間、SASの重症度(AHI)、いびき音、睡眠中の身体の動きなどを知ることができるようになります。

AHIについて

睡眠時無呼吸症候群と診断されても、その程度によって治療内容は異なります。SASの重症度というのは、無呼吸低呼吸指数(AHI:Apnea Hypopnea Index)によって判定されます。そもそもAHIとは、睡眠時1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数を測定して算出されたものです。なお無呼吸とは、空気の流れが10秒以上停止した状態をいいます。低呼吸は空気の流れが一定以上(通常は30%以上)減少し、血中酸素飽和度が3%以上低下している状態をいいます。

なお、日本睡眠学会では、SASの重症度について以下のように分類しています。

正常範囲 AHIが5未満
軽症 AHIが5以上15未満
中等症 AHIが15以上30未満
重症 AHIが30以上

なお、AHIの数値のみが必ずしも重症度の判定において絶対的なものではありません。最低酸素飽和度(SpO2)をはじめ、SASのタイプ(閉塞性、中枢性)、睡眠が途切れ途切れになる程度、日中の眠気の強さや自覚症状の出方なども確認しながら、重症度は判定されます。

治療について

SASの治療は、症状の重症度や原因によってその内容は異なります。

CPAP療法

中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の患者さんであれば、CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:経鼻的持続陽圧呼吸)療法が一般的には選択されます。これは、圧の加わった空気を送ることができる装置を使用するものです。睡眠時に専用のマスクを鼻に装着することで、睡眠中の気道の閉塞を解消できる程度の圧が加わった空気が送り込まれるので、息苦しいことによる中途覚醒やいびきも出なくなります。同装置を使用することでAHIの数値も改善され、睡眠時の問題だけでなく、日中の眠気、集中力の低下などの活動時の自覚症状も改善されるようになります。

ただCPAP療法というのは対症療法であって、根本的な治療とはなりません。そのため肥満が気道閉塞の原因であれば、減量のために生活習慣を改善するなどの対策も併せて必要となります。同装置は医師の指導のもとで使用し、毎晩4時間以上の使用を推奨しています。

ちなみにCPAP療法は、CPAP機器を患者さんに貸し出す形になります。同療法が保険適用になる条件としては、AHI(無呼吸低呼吸指数)が20以上、もしくはAHIが5以上の方で日中に眠気などがみられる、あるいは高血圧などの合併症のある患者さんとされています。また使用中は1~3ヵ月に1回程度の間隔で通院する必要があり、医師に使用状況の確認なども行っていきます。

口腔内装置(マウスピース)

また軽症から中等症のOSASの患者さんや、CPAP療法の適応が難しいとされる患者さんについては、口腔内装置(OA:Oral Appliance)いわゆるマウスピースによる治療となります。この場合、歯科医師が患者さんオリジナルの特殊なマウスピースを作成します。これを装着し、下顎を前方に固定した状態で眠ることで気道が確保され、閉塞状態を解消していきます。効果に関しては個人差があるともいわれますが、適切に調整されたマウスピースを使用することができれば、AHIを50〜70%ほど改善するという報告も多くみられています。

手術療法

CPAPやマウスピース以外にも手術療法によって、SASを完治させるという選択肢もあります。例えば扁桃肥大が原因の患者さんでは、口蓋扁桃摘出術や口蓋咽頭形成術(UPPP)が行われます。UPPPでは、軟口蓋や咽頭組織の余剰部分を切除して、気道を広げていく外科的治療となります。また小児のSAS患者さんでは、扁桃を摘出することで多大な効果が見込めることがよくみられます。このほか、鼻づまりが強いことによるSASであれば、鼻中隔矯正術や下鼻甲介手術等を行い、鼻腔の通気性を良くしていくことで症状を改善していくこともあります。

なお手術による効果の有無は個人差もあるので、事前に詳細な上気道の評価、睡眠検査も行ったうえで、慎重に判断していきます。

生活習慣の改善も重要

重症度に関わらず、SAS患者さんにとって生活習慣の改善は欠かせません。OSASの患者さんでは、肥満が原因による気道閉塞も少なくないです。したがって体重の減量は重要です。そのためには適切な食事管理と定期的な運動が必要となります。当院では計画的な減量を実践するために管理士や運動療法士と連携して、これらの管理を行うことも可能です。お気軽にご相談ください。

CSASの患者さんの治療

CSAS(中枢性睡眠時無呼吸症候群)の患者さんでは、標準的とされるCPAP療法は効果的といえないことが多いです。同タイプは、原因疾患とされる治療を行なうほか、特殊な陽圧換気装置(適応換気モード(ASV:Adaptive Servo Ventilation)での使用)が必要となることもあります。