高血圧について

高血圧

高血圧は自覚症状が乏しいために「サイレントキラー」と呼ばれる深刻な生活習慣病です。
我が国の約4,300万人が高血圧を罹患しているといわれております。
しかしながら自覚症状がほとんどないため、放置されているケースも散見されます。
詳細は後述しますが、高血圧は放っておくと脳卒中や心筋梗塞、腎臓病などの重大な合併症を引き起こすリスクがあるので、放置は厳禁といえます。
ここでは高血圧の正確な定義、原因からその治療法までを説明していきます。

高血圧とは何か

高血圧は、動脈を流れる血液が血管壁に与える圧力(血圧)が慢性的に高い状態を指します。
高血圧は自覚症状の乏しいまま進行し、重大な健康リスクをもたらす可能性がある病態です。
高血圧は単独の疾患というよりも、心筋梗塞や脳卒中などの深刻な疾患の主要な危険因子となります。

高血圧の定義と診断基準

日本高血圧学会のガイドライン(JSH2019)によると、診察室での血圧測定値が収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上の場合に高血圧と診断されます。
ただし、近年では家庭血圧の重要性も強調されており、家庭での測定値が収縮期血圧135mmHg以上、または拡張期血圧85mmHg以上の場合も高血圧と判断されます。

血圧の分類は以下のように細分化されています。

成人における血圧値の分類 (USH2019 18頁表2-5より引用)

分類 診察室血圧 (mmHg) 家庭血圧(mmHg)
収縮期血圧   拡張期血圧 収縮期血圧   拡張期血圧
正常血圧 <120 かつ <80 <115 かつ <75
正常高値血圧 120~129 かつ <80 115~124 かつ <75
高値血圧 130~139 かつ/
または
80~89 125~134 かつ/
または
75~84
Ⅰ度高血圧 140~159 かつ/
または
90~99 135~144 かつ/
または
85~89
Ⅱ度高血圧 160~179 かつ/
または
100~109 145~159 かつ/
または
90~99
Ⅲ度高血圧 ≥ 180 かつ/
または
≥110 ≧160 かつ/
または
≥100
(孤立性)収縮期高血圧 ≥ 140 かつ <90 ≧135 かつ <85

高血圧の診断は、複数回を複数日にわたる血圧測定の結果に基づいて行われます。
一度の測定だけで即断することは避け、少なくとも2回以上の診察日の値を参考にするのが一般的です。

収縮期血圧と拡張期血圧の違い

血圧は通常、2つの数値で表されます。
例えば「120/80mmHg」という表記では、前者が収縮期血圧(上の血圧)、後者が拡張期血圧(下の血圧)を示しています。
収縮期血圧は、心臓が収縮して血液を送り出す際に動脈壁にかかる最大の圧力を表します。
心臓が収縮して血液を大動脈に押し出したときの圧力であり、心臓のポンプ機能を反映します。
加齢とともに動脈の弾力性が失われると、特に収縮期血圧が上昇しやすくなります。
一方、拡張期血圧は心臓が拡張してリラックスしている間の血圧です。
心臓が次の収縮のために血液を溜める間の圧力を示し、主に末梢血管の抵抗を反映しています。
拡張期高血圧は特に若年〜中年層に多く見られます。
年齢によって重視すべき血圧値が異なる点も重要です。
65歳未満では収縮期血圧と拡張期血圧の両方が予後予測に関連しますが、65歳以上の高齢者では収縮期血圧がより重要な指標となります。
また近年、「脈圧」(収縮期血圧と拡張期血圧の差)の重要性も注目されています。
脈圧が60mmHgを超えると動脈硬化の進行を示唆し、心血管疾患のリスク上昇と関連してきます。

高血圧の原因と危険因子

日本人の40歳以上の3人に1人が高血圧であるとされています。
高血圧の原因を理解することは、効果的な予防と管理のためにとても重要です。

本態性高血圧と二次性高血圧の違い

高血圧は大きく分けて
「本態性高血圧」

「二次性高血圧」
の2種類に分類されます。

本態性高血圧は原発性高血圧とも呼ばれ、高血圧患者の約90%を占めています。
明確な単一の原因が特定できないことが特徴で、複数の要因が複雑に絡み合って発症します。
遺伝的素因や生活習慣(塩分の過剰摂取、運動不足、肥満、ストレスなど)が主な要因と考えられています。
一方、二次性高血圧は全体の約10%を占め、具体的な原因疾患があって発症する高血圧です。
二次性高血圧の主な原因としては以下が挙げられます。

  • 腎臓疾患(腎実質性疾患、腎血管性高血圧など)
  • 内分泌疾患(原発性アルドステロン症、褐色細胞腫、クッシング症候群など)
  • 大動脈縮窄症などの血管異常
  • 睡眠時無呼吸症候群
  • 薬剤性(NSAIDs、経口避妊薬、漢方薬など)

二次性高血圧の場合、原因疾患を治療することで血圧が正常化することが期待できます。

生活習慣が血圧に与える影響

日々の生活習慣は血圧に大きな影響を与えます。
特に以下の要因が重要となります。

食塩摂取量

日本人の食塩摂取量は1日平均約10g程度と、WHO推奨の5g未満を大きく上回っています。
塩分の過剰摂取は体内の水分量を増加させ、血管内の血液量が増えることで血圧を上昇させます。
特に食塩感受性の高い人(高齢者や肥満者、慢性腎臓病患者など)は注意が必要です。

肥満

BMI25以上の肥満は高血圧の主要なリスク因子です。
特に内臓脂肪型肥満は、インスリン抵抗性やレニン・アンジオテンシン系の活性化を引き起こし、血圧上昇に直結します。
体重が10%増加すると、収縮期血圧が約3mmHg上昇するというデータもあります。

運動不足

定期的な運動は血管の弾力性を維持し、自律神経のバランスを整える効果があります。
運動不足は血管の硬化や交感神経の緊張を招き、高血圧のリスクを高めます。

アルコール摂取

過度のアルコール摂取は血圧を上昇させます。
日本高血圧学会のガイドラインでは、男性は1日20〜30ml(純アルコール換算、日本酒なら1合程度)、女性はその半分までにとどめることが推奨されています。

喫煙

タバコに含まれるニコチンは血圧を上昇させるだけでなく、血管内皮細胞の機能を障害し、動脈硬化を促進します。
喫煙は高血圧そのものだけでなく、高血圧による合併症リスクも大幅に高めます。

睡眠の質と量

不十分な睡眠や睡眠時無呼吸症候群は交感神経を活性化させ、血圧上昇をもたらします。
個人差もありますが、概ね7-8時間の質の良い睡眠が血圧管理に重要です。

遺伝的要因と家族歴の重要性

高血圧は遺伝的影響を強く受ける疾患です。
両親や兄弟に高血圧がある場合、本人も高血圧になるリスクは約2倍に上昇するというデータがあります。
高血圧の遺伝的要因は単一の遺伝子ではなく、複数の遺伝子が関与する多因子遺伝形式をとります。
塩分感受性、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の活性、交感神経系の反応性などに関わる遺伝子多型が高血圧の発症に影響していると考えられています。
家族歴がある場合は、若いうちから定期的な血圧測定を心がけ、生活習慣の改善に積極的に取り組むことが推奨されます。

年齢と高血圧の関係

年齢は高血圧の最も重要な危険因子の一つです。
加齢に伴い、血圧は上昇する傾向にあり、特に日本人は加齢による収縮期血圧の上昇が顕著です。
若年期は拡張期血圧が上昇しやすく、中年期以降は収縮期血圧が上昇する傾向があります。
これは加齢に伴う動脈硬化の進行の他、血管の弾力性低下、腎機能の変化などが原因と考えられています。

高血圧が引き起こす主な症状

高血圧

高血圧状態が続くと、体にはさまざまな変化が起こります。
まず血管に対する圧力が常に高い状態が続くことで、血管壁が徐々に硬くなり、弾力性を失っていきます。
これがいわゆる「動脈硬化」の始まりです。
高血圧が進行すると、以下のような症状が現れることがあります。

  • 頭痛
  • めまいや立ちくらみ
  • 耳鳴り
  • 鼻血が出やすくなる
  • 動悸や息切れ
  • だるさや疲労感
  • 肩こりや首の痛み など

ただし、これらの症状は血圧が非常に高くなった場合や既に臓器障害が始まっている段階で現れることが多いため、症状が出てからでは対応が遅いことも少なくありません。
特に血圧が180/110mmHg以上になると「高血圧緊急症」と呼ばれる状態に陥ることがあり、激しい頭痛や吐き気、嘔吐、意識障害などの症状が現れます。
この状態は脳卒中や心筋梗塞のリスクが極めて高く、緊急の医療介入が必要といえます。

高血圧を放置するとどうなるのか

高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれるように、自覚症状がないまま進行して重大な健康被害をもたらす可能性があります。
血圧が継続的に高い状態を放置すると、全身の臓器に様々な悪影響を及ぼします。
特に心臓や脳、腎臓、血管などの重要な臓器にダメージを与え、生命を脅かす疾患のリスクを著しく高めます。

動脈硬化と血管への負担

高血圧の状態が続くと血管内壁を傷つけ、長期間にわたって血管の弾力性を低下させ、動脈硬化を促進します。
動脈硬化とは、血管壁が厚く硬くなる現象であり、血液の流れを妨げるだけでなく、血栓形成のリスクも高めます。
正常な血管であれば、柔軟に伸縮して血圧の変動に対応できますが、硬化した血管では対応が難しくなります。
さらに血管内腔が狭くなることで血流が悪化し、末梢組織への酸素や栄養の供給が不足します。
これにより、冷え性や末梢動脈疾患などの症状が現れることもあります。
また、動脈硬化が進行すると大動脈瘤(動脈の壁が弱くなって膨らむ状態)のリスクも高まります。
特に大動脈解離という、動脈の内壁が裂けて血液が壁の層間に入り込む致命的な状態を引き起こす可能性があります。
大動脈解離は突然の激しい胸痛や背部痛を伴い、緊急であり命に関わる疾患です。

心臓疾患のリスク増加

高血圧は心臓に直接的な負担をかけ続けます。
血圧が高い状態では、心臓は通常よりも強く収縮して血液を送り出さなければならないため、心筋に過度の負担がかかります。
この状態が長く続くと、心肥大(心臓の筋肉が厚くなること)や様々な心疾患を引き起こします。
厚生労働省の調査によると、高血圧は心疾患による死亡リスクを約2〜3倍に増加させるとされています。
特に収縮期血圧が20mmHg上昇するごとに、心血管疾患のリスクは約2倍になるというデータもあります。

心筋梗塞

高血圧による動脈硬化は冠動脈(心臓の筋肉に酸素や栄養を送る血管)にも影響を及ぼします。
冠動脈が狭くなったり閉塞したりすると、心筋梗塞を引き起こす可能性があります。
心筋梗塞は、冠動脈の血流が突然遮断されることで心筋細胞が壊死する緊急事態です。
心筋梗塞の典型的な症状には、胸の中央部の圧迫感や痛み、左腕や顎、背中への放散痛、冷や汗、吐き気、息切れなどがあります。
日本では年間約13万人が心筋梗塞を発症し、そのうち約4万人が命を落としているとされており、その主要な危険因子の一つが高血圧です。
最近の研究では、高血圧の管理によって心筋梗塞の発症リスクを20〜30%低減できることが分かっています。特に早期から適切な血圧管理を行うことの重要性が強調されています。

心不全

高血圧が長期間続くと、心臓は継続的に過剰な仕事を強いられ、やがて心不全に至ることがあります。
心不全とは、心臓が体の必要とする量の血液を送り出せなくなった状態を指します。
初期の心不全では、軽い労作時の息切れや疲労感、足のむくみなどが現れます。
進行すると、安静時でも息切れを感じるようになり、夜間に呼吸困難で目が覚める発作性夜間呼吸困難や横になると息苦しくなる起座呼吸なども起こります。
日本循環器学会のガイドラインによると、高血圧は心不全の主要な原因の一つであり、高血圧患者は正常血圧の人と比較して心不全を発症するリスクが2〜3倍高いとされています。
さらに高血圧に糖尿病や脂質異常症などが合併すると、そのリスクはさらに高まります。
心不全は一度発症すると完全に治癒することは難しく、生涯にわたる管理が必要となるため、高血圧の早期からの適切な治療が重要です。

脳血管疾患との関連

高血圧は脳の血管にも大きな影響を与えます。
脳は体重のわずか2%程度にすぎませんが、心拍出量の約15〜20%もの血液を必要とする臓器です。
高血圧による脳血管への持続的な負担は、様々な脳血管疾患のリスクを高めます。
日本脳卒中学会の報告によると、高血圧は脳卒中発症の最大の危険因子であり、適切な血圧管理によって脳卒中の発症リスクを約40%も低減できるとされています。

脳卒中と高血圧の関係

高血圧は脳卒中の最も重要な危険因子です。
脳卒中には主に脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3種類があります。
脳梗塞は、脳の血管が血栓や塞栓によって閉塞し、その先の脳組織に血液が届かなくなることで起こります。
高血圧による動脈硬化は、脳血管の狭窄や閉塞を促進し、脳梗塞のリスクを高めます。

脳出血は、脳内の血管が破れて出血する状態です。
高血圧は血管壁に過度の圧力をかけ続けることで、特に細い血管の壁を弱め、破裂させる原因となります。
脳出血は突然の激しい頭痛、意識障害、麻痺などを特徴とし、重症化すると命に関わります。

くも膜下出血は、脳を包む膜(くも膜)の下の空間に出血が起こる状態で、多くは脳動脈瘤の破裂が原因です。
高血圧は動脈瘤の形成と破裂のリスクを高めます。
「雷が落ちたような」と表現される激しい頭痛で発症し、約30〜50%の方が命を落とす深刻な疾患です。

脳卒中は日本人の死因の第4位であり、要介護状態の最大の原因疾患でもあります。
高血圧の適切な管理は、脳卒中予防の基本中の基本といえます。

認知症リスク

認知症リスク

近年の研究により、高血圧と認知症の間には密接な関連があることが明らかになっています。
特に中年期(40〜60歳代)の高血圧は、その後の認知症発症リスクを高めることがわかっています。
高血圧は脳の小血管に障害を与え、微小脳梗塞や白質病変といった目に見えにくい変化を引き起こします。
これらの変化が蓄積されると、認知機能の低下や血管性認知症の原因となります。
またアルツハイマー型認知症の発症リスクも高めることが示唆されています。
日本認知症学会によると、高血圧の適切な管理によって認知症の発症リスクを最大30%程度低減できる可能性があるとされています。
高齢化社会において、認知症予防の観点からも高血圧管理の重要性が増しています。

腎機能障害と高血圧の悪循環といえる関係

腎臓と血圧は密接に関連しており、お互いに影響し合います。
高血圧は腎臓の血管に障害を与え、腎機能を低下させます。
一方、腎機能が低下すると、体内の水分や塩分の排泄が適切に行われなくなり、さらに血圧が上昇するという悪循環が生じます。
腎臓の働きが徐々に低下していく慢性腎臓病(CKD)の最大の原因の一つが高血圧です。

日本腎臓学会の調査によると、日本人の約8人に1人が慢性腎臓病に罹患しており、その多くが高血圧と関連しています。
高血圧によって腎臓の細小血管が傷つくと、タンパク尿(アルブミン尿)が出現します。
これは腎機能低下の初期サインであり、放置すると腎臓の濾過機能がさらに低下し、最終的には腎不全に至る可能性があります。

腎不全に至ると、人工透析や腎移植などの腎代替療法が必要となります。日本透析医学会の統計によると、日本の透析患者数は約34万人を超え、その原因疾患の上位に高血圧性腎症が含まれています。

特に注目すべきは、高血圧と腎機能障害の関係は双方向であるという点です。
高血圧が腎機能を悪化させるだけでなく、腎機能の低下がレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系を活性化させ、さらに血圧を上昇させるという悪循環が形成されます。

このような悪循環を断ち切るためには、早期からの血圧管理が極めて重要です。

高血圧の効果的な対策と予防法

高血圧の管理において、生活習慣の改善は薬物療法と同様に重要な位置を占めています。
適切な対策を継続することで、血圧を正常範囲に保ち、合併症のリスクを大幅に減らすことができます。ここでは科学的根拠に基づいた効果的な対策と予防法について説明します。

食事療法について

高血圧の管理において、食事療法は最も基本的かつ効果的なアプローチです。
適切な食事習慣を身につけることで、薬に頼らずとも血圧を下げられる可能性があります。

減塩のコツと実践方法

日本人の塩分摂取量は平均で1日約10g程度と言われており、これは日本高血圧学会が推奨する6g未満の基準を大きく上回っています。
塩分の過剰摂取は血圧上昇の主要因のひとつです。
減塩を実践するためのコツとしては、まず調味料の使用量を意識的に減らすことが重要です。
醤油やみそなどの調味料に含まれる塩分は意外と多く、小さじ1杯の醤油でも約1gの塩分が含まれています。

具体的な実践方法としては以下が効果的です。

  • 調味料は「かける」より「つける」習慣に変える
  • だしや香辛料、酸味(レモンやお酢)を活用して塩分が少なくても美味しく感じる調理法を工夫する
  • 加工食品や外食に含まれる「隠れ塩分」に注意する(ハムやチーズ、インスタント食品など)
  • 減塩醤油や減塩みそなどの減塩調味料を利用する
  • 汁物は具沢山にして、汁を残す習慣をつける など

運動療法の基本

適切な運動は、血圧低下に直接効果があるだけでなく、体重管理やストレス軽減にも役立ち、総合的に高血圧の改善に寄与します。
運動による血圧低下のメカニズムには、血管の弾力性の改善や交感神経系の活動抑制、インスリン感受性の向上などが関わっています。

有酸素運動の効果

有酸素運動は高血圧の改善に特に効果的であることが多くの研究で示されています。
有酸素運動とは、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳などの酸素を使って持続的に行える運動のことを指します。

高血圧の薬物治療

高血圧の治療において、生活習慣の改善だけでは十分な血圧コントロールが難しい場合、薬物療法が必要となります。
日本高血圧学会の治療ガイドラインでは、血圧値や合併症の有無に応じて薬物療法の開始基準が示されています。
高血圧の薬物治療は、単に血圧を下げるだけでなく、将来の心血管疾患のリスクを低減させることを目的としています。

降圧薬の種類と作用機序

現在、日本で使用される主な降圧薬は大きく5種類に分けられますそれぞれ作用機序や特徴が異なるため、患者さんの状態に合わせて選択されます。

カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬)は、血管平滑筋のカルシウムチャネルをブロックして血管を拡張させる薬剤です。

アムロジピンやニフェジピンなどが代表的で、日本人の高血圧患者に最も処方される第一選択薬となっています。
即効性があり、幅広い患者層に使用可能なことが特徴です。

アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は、血管収縮作用を持つアンジオテンシンIIの働きを抑え、血圧を下げます。

カンデサルタンやオルメサルタンなどが代表的です。
副作用が少なく、腎保護作用や心肥大の抑制効果も期待できるため、糖尿病や心不全を合併する高血圧患者に適しています。
このARBとネプリライシン阻害薬を組み合わせた、心不全治療の新しい選択肢であるアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)についてはこちら

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)も、ARBと同様にレニン-アンジオテンシン系に作用しますが、アンジオテンシンIIの生成自体を抑制します。

エナラプリルやペリンドプリルなどがあります。
心不全や糖尿病性腎症に対する効果が高いですが、空咳などの副作用が出ることがあります。

利尿薬は、腎臓での塩分・水分の再吸収を抑制して尿量を増やし、循環血液量を減少させて血圧を下げます。

日本ではサイアザイド系の少量利尿薬が推奨されており、トリクロルメチアジドやインダパミドなどが使用されます。
特に塩分感受性の高い高齢者や肥満患者に効果的です。

β遮断薬は、交感神経の作用を抑制し、心拍数や心収縮力を減弱させることで血圧を下げます。

アテノロールやカルベジロールなどがあります。
狭心症や心筋梗塞後、頻脈を伴う高血圧に適していますが、気管支喘息患者には注意が必要です。

近年では、複数の作用機序を持つ配合剤も増えており、服薬錠数の減少による服薬アドヒアランスの向上が期待されています。
たとえば、ARBとカルシウム拮抗薬の配合剤は1日1回の服用で効果的な血圧コントロールが可能です。

ARNI

ARNIは、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬とも呼ばれるもので、これまでに慢性心不全の治療薬として、厚生労働省の承認(2020年6月)を受けていました。その後、高血圧症に対する効能についても承認を取得したことで、同疾患の患者さんにも用いられるようになりました。

このARNIに分類されるエンレストが高血圧症の患者さんにも使われるようになりました。そもそもエンレストとは、ネプリライシン阻害薬(サクビトリル)とARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬:バルサルタン)が組み合わさった合剤です。

ARBについては、高血圧症の患者さんに用いられる数種類ある降圧薬のひとつでもありますが、ARNIはサクビトリルも含まれています。これによって、体内に存在するネプリライシンと呼ばれる酵素の働きを阻害する効果も加わります。それがナトリウム利尿ペプチド等の血管拡張作用のあるホルモンの分泌量を体内で増加させるので、血管を拡張させる効果のほか、利尿作用、血圧低下などの効果もみられるようになります。また同薬(ARNI)は、以前から慢性心不全の患者さん向けに使われていたこともあり、心臓への負担も軽減させる働きもします。したがって高血圧症の合併症のひとつでもある心不全への進行も抑えられるようになります。

エンレストには、錠剤と粒状錠小児用の2種類があります。成人の高血圧症患者さんでは、1日1回の間隔で200mgの量を経口投与していきます。服用によるデメリットとしては、低血圧状態になることが多いほか、高カリウム血症や腎機能障害のリスク、血管浮腫や脱水などの症状がみられるといったことがあります。